第1章 最初の一ヶ月
残りの三人のうち二人は私に向き直り、
「松奈~。あいつはインチキ野郎なんだ。あいつの話は何だろうと乗っちゃダメだからねっ!!」
「そうそう。上手い話には裏があるんだ。松奈に何かあったら、お兄ちゃんたち悲しいからな!」
彼らは私にお説教。いや……そのインチキ野郎の怪しいサービスに堂々と乗ったあなた方は何なんだ。
「じゃ、俺たちもイヤミを捕まえに行くか」
「松奈、ちゃんと家に帰るんだぞ!」
と二人が去って行き。ホーッと肩を落とした。
「松奈」
そこで、残った一人が私に近づいた。一松さんだ。
相変わらず猫背だけど、いつもと違うスーツ姿に、ちょっとドキッとする。
「すみません。ご心配をおかけしちゃって」
「全くだ、馬鹿。もう変なアルバイトするな。帰るぞ」
「はい!!」
私は笑顔で一松さんについていった。
私たちは並んで河川敷を上がっていく。
こうして私の変なアルバイトは終わりを告げたのである。
めでたし、めでたし。
……。
…………。
そ う な る は ず だ っ た 。
…………
「ええっ!?」
顔を上げる。さ、酒臭い。息を吸うだけで酔いそうだ。
「どうしたの? 松奈ちゃん」
横からトド松さんが聞いてくる。顔が赤い。かなり酔っている。
「え? ええ!?」
愕然(がくぜん)として周囲を見た。
ここはどこだ。わ、私はどこに!? 家に帰ったはずでは!?
「どうしたの? ウトウトしちゃった? もっと楽しもうよ」
とおそ松さんが肩に手を回してくる。
彼のことは決して嫌ってはいないが、肩に手を回される仲では無い。
あと、やらしく撫でてくるとこがオッサンくさい。
しかし相手は年上の大人で、『嫌です』とキッパリ言いにくい。つか雰囲気がいつもと違ってて怖い。
ただうつむいて、真っ赤になっていると、
「ああ、肩に手を回すのは千円だっけ? はい、どうぞ。赤くなっちゃって、可愛いなあ」
とスッと千円出された。
反射的に受け取ろうとすると、千円札が引っ込み手が宙をかく。
「ああ、こういう方がいいかな?」
と、ポケットに千円札が入る。入れる瞬間に手が身体をちょっと触ってる!
「嫌だった?」
「いえ、その……」
汗が。冷たい汗が全身を流れる。