第1章 最初の一ヶ月
そして重大なことを十四松さんに聞く。
「十四松お兄さん、『チェンジ』とは何ですか?」
「うん! チェンジってのは、野球で選手交代の意味なんだよ!!」
「そうですか、意味がさっぱり分かりませんが、何やら心の深い部分が傷ついたような気がします」
つい十四松さんの胸に飛び込むと、抱きしめていただけた。
「俺は松奈でも大丈夫だからチェンジしたりなんかしないよ! 三千円でもいいから!!」
「なぜでしょう。もっとひどい罵倒をされている気がするんですが!
それにお金はもらうんじゃないんですよ? 払うんですよ? 分かってます?」
と言いつつ、ギューッとしてみたり。
何せ六つ子。一松さんと同じ顔に抱きしめられていると思うと、何だか一松さんに抱きしめられているように錯覚してしまい、変な気分になる。
『おい十四松、何してやがるんだ、てめぇっ!!』と押し入れから一松さんの怒声が聞こえた気がしたが、これは本当に幻聴かもしれない。
その後、押し入れをぶち破った一松さんと十四松さんが取っ組み合いになったり、最終的に三人のじゃれ合いになったりしたが、それはまた別の話である。
で。
…………
「うーん、どうしたもんですかねー」
その夜。松野家のお風呂から上がり、私はまだ悩んでいた。
六つ子の部屋の前を通ると、今日もおそ松さんたちは仲良く何かを話している。
ずいぶんと楽しそうだが、何の話だろうと、つい立ち聞き。
「安いだろ! これは絶対にブスが来るか、ぼったくりかだ!」
「何なんだよ。このチェリー割って! どこで判定するの! 何でチェリー大歓迎なの!?」
「でもなあ。ほら、ここ見ろよ……つまりさ、もしかしたら×××もOKってことだろ!」
「てことは×××か! いや×××××もありかも」
「僕は××××が×××××だと思うな!!」
「××××××××…………」
「×××……」
会話に放送禁止用語が増えたため、私は無言で部屋の前を離れた。
あれか。××か。夜のお店の話題ということなのか。
こういったことに興味のなさそうな一松さんまで、嬉々として会話に加わっていたなあ。
すっごいショック……。違う違う! 全然ショックじゃ無い!
現実の男性なんて、こんなものだよね。居候として、とやかくは思うまい。
はああああ……。