第1章 最初の一ヶ月
押してもダメだと悟ったかイヤミ社長は、
「なら今日はこのへんにするざんす。ミーはチラシを配って回るざんす。
よく考えて、楽にお金を稼ぎたいのなら明日の朝、来てほしいざんす!」
と、高速スキップでどこかに消えた。
チラシを配る時点で確信犯な気もするんだけど。
私はただ脱力感だけを抱き、松野家へと戻っていったのであった。
…………
部屋でゴロゴロ過ごしていると、一松さんがダウナーに聞いてきた。
「元気ないね、どうしたの?」
「私を押し入れの方に押しやりながら言わんで下さい。今、悩んでるんですから」
じりじりと、私を閉鎖空間に押しやる一松さんを押し返しつつ言うと、
「悩んでるって……悩むほど何かを考えることがあるんだ?」
「十四松お兄さん、手伝って下さい。この地縛霊を押し入れに封印しますから」
「分かったーっ!!」
「っ!? 分かったって、何がだ十四松! おい、一緒に俺を押すんじゃないっ!!」
意外と簡単にキャラ崩壊するんだな~、一松さん。
大慌ての一松さんを、十四松さんと押し入れに押し込む。
ちなみに部屋には、最初から十四松さんがいた。
私の部屋に入り浸る一松さんに引き寄せられてか、彼と仲のいい兄弟である十四松さんも、最近、私の部屋に現れるようになっていた。
「で、松奈、何を悩んでたの?」
押し入れの戸を無理やり閉めながら、若干、焦点の合ってない目で十四松さんが聞いてくる。
「あのですね。一時間五千円で私とデートしたいと思います?」
シーン。
一松さん、十四松さんが動きを止めた。
沈黙。
…………。
おい、止めろ。頼むから罵倒して。もしくは爆笑して。
自分がカラ松さん並みに痛い発言をしたようで、いたたまれないだろうっ!!
そして永遠とも思える沈黙の後、押し入れの隙間から一松さんが手を出してきた。
こぶしを握り、お、親指を立てたっ!?
が、立てた指を瞬時に下に向け、隙間から邪悪な笑みをのぞかせ、
「チェーンジっ!!」
「十四松お兄さん、封印っ!!」
「よし来たー!!」
「お、おい待て、おまえらっ!! おいーっ!!」
とりあえずつっかい棒をして、中からドンドン叩く音は無視する。