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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



「それは書いてあるだけざんすよ! 客は『もしかしたらHなことが出来るかも~』
『してもらえるかも~』という期待で来るざんす!
 いくら札束で頬を叩かれても、チミが応じなければ安全ざんす!!」

 本当にそうなのか? 私は腕組みし、低い声で、

「安全対策はマジで大丈夫なんですか? 客がヤバいことをしてきたら、どうしてくれんです?」

「そのときはこのポケベルで……」

「90年代かっ!! 使い方知らんわっ!!」

「防犯ブザーで……」
「小学生っ!? もういいですよ!!」
 怒り心頭で帰ろうとすると、

「待って待って!! 絶対に何もしない客を案内するから、お試しで働いてみてほしいざんす!!」

 イヤミ社長は必死である。まあ、考えるまでもなく、この会社に来たお馬鹿さんは、私一人なんだろうな。何だか可哀想に……いやいやいや。こいつは夢見る乙女から搾取しようとするクズだ。同情してはならない。

「それに私、そこまで可愛くないですよ?」

 川面に映る己の平凡顔を見つめる。
 別に卑下するわけでなく、どこにでもいる顔だと思う。
 お客がお金を払ってまでデートしたい容姿かと言われれば、とてもとても。

 ちなみにチラシには、チョロ松さんご執心のアイドル、何とかにゃーちゃんモドキの
美少女イラストが描かれている。
 フキダシがついてて『お兄ちゃんとお散歩したいにゃん♪』と媚びを売っておった。

「何言ってるざんすか! チミは可愛いざんす! 何万票も集める多人数アイドルグループだって、そこらへんにいるような顔の子がたくさんいるざんすよ!!」

 それ、多人数アイドルグループをディスってるのか私をディスってんのか……。
 なおも難色を示す私に、イヤミ社長は猫なで声で、

「チミは可愛いざんす。自信を持つざんす。お金を払ってチミとデートしたい男はいるざんすよ!!」

「肩をもまんで下さい。とにかくそんな変なバイトはごめんですっ!」

「ならっ! ミーはチミの安全のため、『女の子とろくにつきあったことのないようなピュアな男』だけを紹介するざんす! それならチミも安全ざんしょ!?」

 いやそれ、最も危険じゃないか?

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