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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第8章 派生④カラ松END



「ここは……?」

 光の差す窓辺、きれいすぎるキッチン。やけに広い室内と、隅っこに置かれた大小の段ボール。

 私が案内されたのは、狭いけど真新しいアパートだった。

 私の後ろからカバンを持って入ってきたカラ松さんは、

「もう家には戻れないだろうから、子猫ちゃんのために借りておいたんだ」
「そうですか」
「これなら一松に気兼ねしながら生活をしなくてもいいし、あいつもまた、以前の生活に戻れるよ」
「なるほど、それはそうですね」

 カラ松さんは微笑む。

「ハニーは疲れているだろうから、そこで休んでいてくれ。俺は荷物を開けてるから」
「あ、はい」

 私は部屋のすみに座り、カラ松さんが段ボールを開けるのをボーッと眺める。

 ……あ?

「あ、あの、カラ松さん?」
「ああ、家具の配置が気に入らないなら直すから指示してくれ」

「いや何当たり前の顔で、家を用意したり荷物を運び込んだりしてんです!
 私、もうすぐ元の世界に帰るんですけど!?」

「……そうだな。でもその間ホテル住まいも苦しいだろう?」

「いやそっちのが金銭的に絶対、お得でしょう!?
 ここ、ウィークリー・マンションじゃないですよね!?
 明らかに長期の滞在を想定してますよね!?」

「松奈が家を出たそうだったからな。いなくなってショックだったけど、きっと戻ってきてくれると信じていた。だから頑張って準備していたんだ」

 私に背を向け、段ボールを開けている。
 どんな顔をしているかは分からない。
 だが分かることは。

 カラ松さん、私が失踪した直後から行動を起こしていた……?


 もしや私が勝手にいなくならず都合がいいので、一松さんの監禁を放置。
 そして自分の準備が整って弟が『用済み』となった段階で私に連絡を――。


 いやいやいや。あの弟思いの優しいカラ松さんに限って、まさかそんな……。

「どうした? 松奈」
 向けられる笑顔には一点の曇りもない。曇りもないが。
「い、いえ……別に」

「一松のことがまだ気になるか? 心配しないでくれ。ちゃんとうちで面倒を見るから」

 ――さ、サイコパス……。

 あの弟にしてこの兄あり。

 どこまでが天然で、どこからが計算なのか分からない。

 そういえば最初に関係を持ったときも、そんな感じだったし、この兄弟の闇は深い。


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