第8章 派生④カラ松END
「ここは……?」
光の差す窓辺、きれいすぎるキッチン。やけに広い室内と、隅っこに置かれた大小の段ボール。
私が案内されたのは、狭いけど真新しいアパートだった。
私の後ろからカバンを持って入ってきたカラ松さんは、
「もう家には戻れないだろうから、子猫ちゃんのために借りておいたんだ」
「そうですか」
「これなら一松に気兼ねしながら生活をしなくてもいいし、あいつもまた、以前の生活に戻れるよ」
「なるほど、それはそうですね」
カラ松さんは微笑む。
「ハニーは疲れているだろうから、そこで休んでいてくれ。俺は荷物を開けてるから」
「あ、はい」
私は部屋のすみに座り、カラ松さんが段ボールを開けるのをボーッと眺める。
……あ?
「あ、あの、カラ松さん?」
「ああ、家具の配置が気に入らないなら直すから指示してくれ」
「いや何当たり前の顔で、家を用意したり荷物を運び込んだりしてんです!
私、もうすぐ元の世界に帰るんですけど!?」
「……そうだな。でもその間ホテル住まいも苦しいだろう?」
「いやそっちのが金銭的に絶対、お得でしょう!?
ここ、ウィークリー・マンションじゃないですよね!?
明らかに長期の滞在を想定してますよね!?」
「松奈が家を出たそうだったからな。いなくなってショックだったけど、きっと戻ってきてくれると信じていた。だから頑張って準備していたんだ」
私に背を向け、段ボールを開けている。
どんな顔をしているかは分からない。
だが分かることは。
カラ松さん、私が失踪した直後から行動を起こしていた……?
もしや私が勝手にいなくならず都合がいいので、一松さんの監禁を放置。
そして自分の準備が整って弟が『用済み』となった段階で私に連絡を――。
いやいやいや。あの弟思いの優しいカラ松さんに限って、まさかそんな……。
「どうした? 松奈」
向けられる笑顔には一点の曇りもない。曇りもないが。
「い、いえ……別に」
「一松のことがまだ気になるか? 心配しないでくれ。ちゃんとうちで面倒を見るから」
――さ、サイコパス……。
あの弟にしてこの兄あり。
どこまでが天然で、どこからが計算なのか分からない。
そういえば最初に関係を持ったときも、そんな感じだったし、この兄弟の闇は深い。