第8章 派生④カラ松END
…………。
一回行けば、あきらめてくれるんだろうか……。
なぜ。どうしてこんなことになったんだっけ。
恋人用ホテルの無人受付で、私は呆然としていた。
「こ、子猫ちゃん。ど、ど、どの部屋にしようか」
カラ松さんの声はもろに緊張している。内装だのスペックだのを比較し、ああでもない、こうでもない。
「早くしましょうよ。『ご休憩』で取るんだし」
「あ、ああそうだな。だが子猫ちゃんと最高の時間を過ごすために――」
「×××号室にしますね。はい、ご休憩っと」
「えー!!」
ショックを受けたご様子のカラ松さん。
女にリードされるのが嫌なら、ちゃんとご自分で選んで下さいな。
「行きますよ。もう」
カラ松さんの手を引っ張り、さっさとエレベーターに乗り込む。
しかし私の心臓はバクバクしている。
部屋を取ってしまった。もう引き返せない。言い訳しようがない。
これは浮気。人として最低な行為だ。
逆の立場なら、私は一松さんを決して許さない。
でも、カラ松さんの誘いを断れなかった。
『一度許してあげれば満足するかも』なんて、詭弁(きべん)だ。
私は、カラ松さんと……その、ホテル、いき、たかった……。
最低だ。自己嫌悪も自己憐憫も許されないくらい最低女。
私、どの面下げて、一松さんを裏切るの? あんなにいい人を……。
泣きそうな思いでうつむいていると、手をギュッと握られた。
見上げるとカラ松さんが私を見下ろしていた。
「松奈。俺も一緒に背負う。だから自分一人だけの罪と悩まないでくれ」
いつもの痛い発言だと、ごまかそうとしても、泣きそうになった。
エレベーターの扉が開き、無人のホールが見えた。
「今はひとときのロンドを楽しみ、後のことはそれから考えよう。
俺たちのこれからのことも、俺たちの大切な一松のことも」
私にとっては優しいお兄さん、カラ松さんにとって大事な弟。
それだけは決して変わらない。絶対に。
「行こう、マイハニー」
手をつないで部屋に入る。
そして、部屋の扉が閉まり、オートロックがかかった瞬間に、カラ松さんは私を抱きしめた。
「松奈……っ!!」
え? カラ松さん、何か泣いてるしっ!!
「夢じゃないんだ! 薬になんか頼らないで……今、君が俺の腕の中にいる……!」