第8章 派生④カラ松END
「す、すまない、マイキティ……俺は怒らせたいわけでも怖がらせたいわけでもない。
ただ君を前にすると、リビドーのまま身体が動いてしまって……」
……リビドーをカッコイイ横文字と勘違いしてるでしょ、絶対。
「動く気がないのなら正直に言って下さい! 私の写真、こっそり撮ったでしょ!?」
「え? な、なぜそれを!?……ああ、あれは苦労した。
何度も何度も君に気づかれそうになって肝を冷やし、試行錯誤を繰り返して、ようやく最高の一枚が撮れたと――」
「盗撮を誇らしげに語るなっ!!」
何で気づかなかった、私の馬鹿馬鹿馬鹿っ!!
怒りのままにカラ松さんの胸ぐらをつかみ上げると、私相手というのにカラ松さんは涙目である。
「ま、マイキティ。安心してくれ! 粗雑には扱ってない! あの写真は大変に重宝して――」
今の言葉のどこに安心する要素があるっ!!
「……お聞きしますが、私のつまらない後ろ姿のどこが最高の一枚なんですか?」
「つまらないなんてことはない! 可能性は無限大だ!!
新婚! エプロンのみ! メイド! 水着! 地下室! 洋館っ!!」
「人をオカズに何のシチュを妄想してんですか、このシ×松がぁあーっ!!」
「ぐはっ!」
トト子さん直伝のボディブローが、クズ松の腹に炸裂した。
はぁはぁ、と崩れるカラ松さんを見ながら汗をぬぐう。
あー、もう! 少しでもカッコいいとこがあると思った私が馬鹿だった!
彼も六つ子の一員。非生産的人生を肯定する人間のクズだった。
……でも新婚、かあ。一瞬ニヤケかけ、ハッと我に返る。
そうだ。今のうちに研究所へ行かないと。
小走りにカラ松さんの横を走り抜けようとし、
「……っ!!」
一瞬で起き上がったカラ松さんに、後ろから抱きしめられた。
「離して下さいっ!!」
抱きすくめられながら、もがいた。けど。
「松奈。頼む、逃げないでくれ。傷つけたいわけじゃない、怖がらせたいわけじゃない」
「…………」
私の肩に吐息。少し冷たい風が吹いて、こずえの葉が揺れて。
「……君が好きだ」
「いや真面目を装っても、さっきの盗撮や妄想で完璧台無しになってますからね!?」
「松奈……」
でも震える声を耳にすると、どうも抵抗する気力が失せてしまう。