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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第8章 派生④カラ松END



「す、すまない、マイキティ……俺は怒らせたいわけでも怖がらせたいわけでもない。
 ただ君を前にすると、リビドーのまま身体が動いてしまって……」

 ……リビドーをカッコイイ横文字と勘違いしてるでしょ、絶対。

「動く気がないのなら正直に言って下さい! 私の写真、こっそり撮ったでしょ!?」

「え? な、なぜそれを!?……ああ、あれは苦労した。
 何度も何度も君に気づかれそうになって肝を冷やし、試行錯誤を繰り返して、ようやく最高の一枚が撮れたと――」

「盗撮を誇らしげに語るなっ!!」

 何で気づかなかった、私の馬鹿馬鹿馬鹿っ!!
 怒りのままにカラ松さんの胸ぐらをつかみ上げると、私相手というのにカラ松さんは涙目である。

「ま、マイキティ。安心してくれ! 粗雑には扱ってない! あの写真は大変に重宝して――」

 今の言葉のどこに安心する要素があるっ!!

「……お聞きしますが、私のつまらない後ろ姿のどこが最高の一枚なんですか?」

「つまらないなんてことはない! 可能性は無限大だ!!
 新婚! エプロンのみ! メイド! 水着! 地下室! 洋館っ!!」

「人をオカズに何のシチュを妄想してんですか、このシ×松がぁあーっ!!」

「ぐはっ!」

 トト子さん直伝のボディブローが、クズ松の腹に炸裂した。
 はぁはぁ、と崩れるカラ松さんを見ながら汗をぬぐう。
 あー、もう! 少しでもカッコいいとこがあると思った私が馬鹿だった!
 彼も六つ子の一員。非生産的人生を肯定する人間のクズだった。

 ……でも新婚、かあ。一瞬ニヤケかけ、ハッと我に返る。

 そうだ。今のうちに研究所へ行かないと。
 小走りにカラ松さんの横を走り抜けようとし、

「……っ!!」

 一瞬で起き上がったカラ松さんに、後ろから抱きしめられた。

「離して下さいっ!!」
 抱きすくめられながら、もがいた。けど。

「松奈。頼む、逃げないでくれ。傷つけたいわけじゃない、怖がらせたいわけじゃない」

「…………」
 私の肩に吐息。少し冷たい風が吹いて、こずえの葉が揺れて。

「……君が好きだ」

「いや真面目を装っても、さっきの盗撮や妄想で完璧台無しになってますからね!?」

「松奈……」

 でも震える声を耳にすると、どうも抵抗する気力が失せてしまう。

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