第8章 派生④カラ松END
「俺は君が好きだ!! もしかすると、一松と松奈が恋人同士になるより前から……」
あーあ、言わないでほしかったのに。
「何で。私、何も特別じゃないですよ?」
「特別だよ。すごく。一人で、寂しそうで、誰かを必要としている子猫ちゃんだ」
カラ松さんの声は泣きそうだ。
「でも俺も自覚していなかったんだ。あの日、あのとき、少しでも君に近づけるかと下心を出して、君を迎えに行ったりしなかったら……」
私の中の、優しいカラ松お兄さん像も崩れなかったんだろうか。
見上げると月がきれいだ。
「別々に帰りましょう。ね?」
「嫌だ! 俺は君と一緒に帰りたいっ!!」
押し殺すような叫びが聞こえた。泣いているのだろうか。よく泣く人だ。
「私は、一ヶ月後には家に帰ります」
「……っ!!」
元の世界を捨て、この世界に残らないのかって?
もちろん一松さんのことは大好きだ。恋人として、愛してると思っている。
でも元の世界、記憶、家族、残してきたもの、やり残したこと――全てを天秤にかけ、迷わず『愛』に傾くほど、私は大人になりきれてない。
「私がいなくなってからカラ松さんと一松さんの間に、修復出来ない傷が残っているのは、ちょっと嫌です」
まあ現段階でも、相当のミゾはあるけど。
「松奈! 君は優しすぎるんだ……」
いえ、100%保身っす。どこまでも私に良いように受け取ってくれるんだなあ。
「松奈が一松を好きなら、俺のことは気にしないでくれ。俺は身を引くから!
視界に入るのも嫌なくらい嫌いになったのなら、俺は家を出る。
でも……君が……家に帰るのは……!」
震える声。
……しかし、ニートを止める気のないあなたが松野家を出るのは、無理ゲーでは。
私は振り向き、少し背伸びをしてカラ松さんにキスをした。
「……松奈……!?」
カラ松さんには幸せになってほしい。
あと一ヶ月でこの世界から消える女のために、これ以上の傷を背負ってほしくない。
だから笑う。
「別々に帰りましょう」
私たちは別々に帰る。そして明日から、兄と妹に戻る。
カラ松さんは優しいから、そんな私の演技につきあってくれるんだろう。
「さよなら、カラ松さん」