第1章 最初の一ヶ月
チョロ松さんに敬礼し、自由の外へ向かう。
家の中で履歴書を書いていては、松野家に巣くう地縛霊に邪魔される。
やはり働く場所は自分の足で見つけねば。
「はは……まあ、気楽にやりなよ」
求人誌を眺めるのがご趣味らしいチョロ松さんが仰った。
…………
そして私は町に仕事探しに来ていた。
「といっても」
町を歩き、求人の貼り紙を探す。が、無い。
こういったものは、どうでもいいときほど目に入るのに、いざ探すとなると見つからないものだ。
「はあ~。こんなにお店があるのに、私の働ける場所はないのでしょうか」
「ん? チミ、よく会うざんすねえ」
「え?」
声をかけられ振り向くと、出っ歯の男性がいた。イヤミ氏である。
「先日はどうも」
頭を下げる。彼のおかげでレトロゲームに開眼……じゃない。暖かい場所で時間をつぶせたのだ。
「別にいいざんすよ。しかしあの後、ヤクザな六つ子の一人に出会ってしまって、金を巻き上げられたのが最悪だったざんすね」
そうですか。不幸な事故もあったものだ。
「で、チミは平日の昼間から何をぶらぶらしてるざんすか?」
そっくり同じ言葉をあなたに返したいんだが。
「仕事を求めております。楽して高級を稼げて履歴書を書かなくていいような感じの」
「……チミ、ちょっとムシが良すぎじゃないざんすか?」
自分でもそう思ってたり。松野家の地縛霊に影響されたのかしらん。
「冗談ですよ。この不況下に、そんなムシのいい話があるわけないじゃないですか。
スーパーのレジ打ちとか品出しとかを気長に探してみます。」
怠惰なのは良くない。地に足をつけ、まっとうな仕事をしないと。
お、そう決めたら、向こうの雑貨屋さんに『急募!アルバイト!!』の文字発見!!
これは神の啓示。今すぐあの店で面接をお願いしよう!!
真面目にコツコツとお仕事をし、お母様に『親孝行』しよう!
そして私は未来に向けて走りかけた。
「いやいや、あるざんすよ~。楽して高級を稼げて履歴書を書かなくていいような。
そんなチミにぴったりのアルバイトが!!」
私の足がピタリと止まった。