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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 チョロ松さんに敬礼し、自由の外へ向かう。
 家の中で履歴書を書いていては、松野家に巣くう地縛霊に邪魔される。
 やはり働く場所は自分の足で見つけねば。
「はは……まあ、気楽にやりなよ」
 求人誌を眺めるのがご趣味らしいチョロ松さんが仰った。

 …………

 そして私は町に仕事探しに来ていた。

「といっても」

 町を歩き、求人の貼り紙を探す。が、無い。
 こういったものは、どうでもいいときほど目に入るのに、いざ探すとなると見つからないものだ。
「はあ~。こんなにお店があるのに、私の働ける場所はないのでしょうか」

「ん? チミ、よく会うざんすねえ」

「え?」
 声をかけられ振り向くと、出っ歯の男性がいた。イヤミ氏である。
「先日はどうも」
 頭を下げる。彼のおかげでレトロゲームに開眼……じゃない。暖かい場所で時間をつぶせたのだ。
「別にいいざんすよ。しかしあの後、ヤクザな六つ子の一人に出会ってしまって、金を巻き上げられたのが最悪だったざんすね」
 そうですか。不幸な事故もあったものだ。

「で、チミは平日の昼間から何をぶらぶらしてるざんすか?」
 そっくり同じ言葉をあなたに返したいんだが。
「仕事を求めております。楽して高級を稼げて履歴書を書かなくていいような感じの」
「……チミ、ちょっとムシが良すぎじゃないざんすか?」
 自分でもそう思ってたり。松野家の地縛霊に影響されたのかしらん。

「冗談ですよ。この不況下に、そんなムシのいい話があるわけないじゃないですか。
 スーパーのレジ打ちとか品出しとかを気長に探してみます。」

 怠惰なのは良くない。地に足をつけ、まっとうな仕事をしないと。
 お、そう決めたら、向こうの雑貨屋さんに『急募!アルバイト!!』の文字発見!!
 これは神の啓示。今すぐあの店で面接をお願いしよう!!
 真面目にコツコツとお仕事をし、お母様に『親孝行』しよう!
 そして私は未来に向けて走りかけた。

「いやいや、あるざんすよ~。楽して高級を稼げて履歴書を書かなくていいような。
 そんなチミにぴったりのアルバイトが!!」

 私の足がピタリと止まった。
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