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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


「あれー? 一松兄さん、何してんの!?」
「別に」
「へー、そうなんだ!」

 十四松さんである! 

 そこで押し入れを閉める力がフッとなくなった。
 一松さんが手を放したらしい。
 私は、勢い余って押し入れを全開にし、外に転がった。
 すると私の姿を見た十四松さんが、そでをブンブン振り、

「松奈! 松奈!! 一松兄さんと何してたの!?」

 いかん。一松さんが変な誤解をされたら大変だ!

「今、一松お兄さんに襲われていました。性的に!」

「へー、そうなんだ!」
「…………」

 ドンっと、一松さんが私を押し入れに押す。
 ピシャっ! と戸を閉める。
 ガタッとつっかい棒をした音がする。
「ちょと! 一松お兄さん? 冗句ですよ、冗句!!」
 私、開けようとする。開かない。

「行くぞ、十四松」
「松奈は~?」
「いいんだ、あいつは二度と姿を現さない」
「へー、そうなんだ!」
 いや『そうなんだ!』じゃないだろっ!! 本当に出て行くな、二人ともっ!!

「あーけーてーぇーっ!!」

 泣きながらドンドンと押し入れを叩くが、二人の足音は遠ざかる。
 私の泣き声だけが、誰もいない部屋に響いたのであった。

 …………

 一時間後。

「いやあ、ひどい目に遭いましたね」
「あー、うん。ひどい目に遭ったみたいだね。
 で、一松に何をしたの? あいつ、かなり怒ってたけど」
 私を救って下さったチョロ松さんは、私を押し入れから引き出しながら言う。

「何もしてございませんよ、チョロ松お兄さん。
 一松お兄さんが部屋の風景の一部になりかけていたから、解凍しようと思って、色々と罵倒してみただけなんです」

「そっかそっか。あいつ、あれで意外と沸点低いから気をつけた方がいいよ」

 流された感。

 私のアルバイトは一向に決まらない。
 その原因の一部は間違いなく一松さんだ。
 私の履歴書作成をなぜか邪魔してくる。
 結果、私は一松さんとほとんど一日を過ごす状態になっている。

 もしかして、未だに私を見張っているつもりなのだろうか。
 きっとそうに違いない。やたら絡んでくるし。警戒心強いなあ。
 いや、それだけ家族思いなんだろう。腹立つけど。

「今後、極力接点を持たないようにいたします。
 ではチョロ松お兄さん、私は外に職探しに参ります」

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