第1章 最初の一ヶ月
「あれー? 一松兄さん、何してんの!?」
「別に」
「へー、そうなんだ!」
十四松さんである!
そこで押し入れを閉める力がフッとなくなった。
一松さんが手を放したらしい。
私は、勢い余って押し入れを全開にし、外に転がった。
すると私の姿を見た十四松さんが、そでをブンブン振り、
「松奈! 松奈!! 一松兄さんと何してたの!?」
いかん。一松さんが変な誤解をされたら大変だ!
「今、一松お兄さんに襲われていました。性的に!」
「へー、そうなんだ!」
「…………」
ドンっと、一松さんが私を押し入れに押す。
ピシャっ! と戸を閉める。
ガタッとつっかい棒をした音がする。
「ちょと! 一松お兄さん? 冗句ですよ、冗句!!」
私、開けようとする。開かない。
「行くぞ、十四松」
「松奈は~?」
「いいんだ、あいつは二度と姿を現さない」
「へー、そうなんだ!」
いや『そうなんだ!』じゃないだろっ!! 本当に出て行くな、二人ともっ!!
「あーけーてーぇーっ!!」
泣きながらドンドンと押し入れを叩くが、二人の足音は遠ざかる。
私の泣き声だけが、誰もいない部屋に響いたのであった。
…………
一時間後。
「いやあ、ひどい目に遭いましたね」
「あー、うん。ひどい目に遭ったみたいだね。
で、一松に何をしたの? あいつ、かなり怒ってたけど」
私を救って下さったチョロ松さんは、私を押し入れから引き出しながら言う。
「何もしてございませんよ、チョロ松お兄さん。
一松お兄さんが部屋の風景の一部になりかけていたから、解凍しようと思って、色々と罵倒してみただけなんです」
「そっかそっか。あいつ、あれで意外と沸点低いから気をつけた方がいいよ」
流された感。
私のアルバイトは一向に決まらない。
その原因の一部は間違いなく一松さんだ。
私の履歴書作成をなぜか邪魔してくる。
結果、私は一松さんとほとんど一日を過ごす状態になっている。
もしかして、未だに私を見張っているつもりなのだろうか。
きっとそうに違いない。やたら絡んでくるし。警戒心強いなあ。
いや、それだけ家族思いなんだろう。腹立つけど。
「今後、極力接点を持たないようにいたします。
ではチョロ松お兄さん、私は外に職探しに参ります」