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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第8章 派生④カラ松END


 私はこぶしをグッと握り、目を閉じて身構える一松さんに。

 とりあえず腹に三発。頭突きを一発。
 回し蹴り一回。背負い投げ一本。
 さらに顔面に一発。倒れたところに全力の蹴りを三回。
 そこで大事なことを思い出す。

「いけない! タバスコを忘れてました!」

「まだ気が済まないの!? どこにタバスコをブッ刺すの!?
 どんだけ根に持ってたの! この子怖いっ!!」
 叫ぶトド松さん。なぜ。
 そして畳に転がる一松さんは、
「ま、まだやってくれるの……?」
 顔を真っ赤にしてはぁはぁ言っていた。
 何でズボンの大事な箇所に膨らみが見えるのだろうか。

 かくして、私たちは正常に仲直り出来たのであった。

 …………

 翌日の朝。私は家事を終え、部屋に戻る。
 窓を開けると雨上がりの青い空。

 そしてギターの音が聞こえた。

 カラ松さんが雨の上がった屋根の上で、バラードを弾いていた。

 私はクマのぬいぐるみを、ちゃぶ台の上に置き、しばしギターを聞いてみる。
 よく聞いてみると失恋の歌のようだ。
 愛する女の幸せを祈る、悲しい恋の歌。

 ギターの奏でる音、青空に透ける声。

「……カラ松さん」

 呟くと、切ないものが胸に落ちた。

 夢を見た。
 私は青い空の草原にいる。
 バッグを肩からかけ、花の咲き乱れる草原を息せき切って走って行く。
 ぬいぐるみのクマさんが、バッグの隙間から顔をのぞかせている。

 草原の真ん中には大きな木。
 その下で、私の大事な人が待っている。

『――松さーんっ!!』

 帽子を押さえ、手を振って大声で呼ぶ。
 木の幹にもたれ、待っていてくれた人は、私に笑顔で片手を上げる。
 飛びついた私を両手で抱きしめ、キスをして頭を撫でてくれた。
 そして言った。

『待っていたぜ、子猫ちゃん』

 …………

 窓から朝の光が差し込んでいる。
 松野家の私の部屋だ。

な、なんですか、今の夢は!」

 冷や汗を流し、掛け布団を握りしめ、うめいた。

 なぜ一松さんではなく、カラ松さんとデートする夢を……。

「いやいやいやいや」
 私は恋人と待ち合わせをする夢を見ただけだ!
 あれがカラ松さんとは――。

『待っていたぜ、子猫ちゃん』

 ……ダメだ。どんなに想像力をたくましくしても、そんな台詞を吐く一松さんなど想像がつかない。


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