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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 結果待ちのとこが採用される保証は……。
「どうする? 行くの? 行かないの?」
 勤労意欲ゼロの悪魔が、猫を抱えてニヤニヤと笑う。
 猫がにゃーと鳴く。 
 私は……私は……っ!!

 …………

 …………

 夕暮れの、電気のついていない薄暗い部屋。
 帰ってきたおそ松さんたちは、ふすまを開けた状態でしばし沈黙し、そして言った。

「何やってんの、おまえら?」

「別に」

 私はうつぶせになった一松さんの背中に座り、両手で顔をおおっていた。

「別に」

 一松さんは苦しそうながら、どこか満足げに猫を撫でているのであった。

 にゃー。

 …………

 …………

 そんなこんなで一週間ほどが過ぎた。
 仕事はまだ決まらない。

 今日も一松さんは部屋のすみにいる。
 猫を抱え、うずくまっている。理由を聞いても語らない。
 あまり話しかけると負のオーラをかもし出す。そのうち畳が腐りそうだった。
 なので私は、一松さんに手を合わせてみた。

「あの、一松さん」
「……何?」
 陰鬱な半眼がこちらを睨んでくる。

「十八時間ほど押し入れに入っていただけませんか?」
「何で」
「ビジュアル的に非常にお似合いだと思うんで」
「…………」

 止めて止めて。私を押し入れの方向にグイグイ押さないで!!

「冗談冗談っ!! 5%ほど冗談っすからっ!!」
 一松さんが私を無理やり押し入れに押し込み、戸を閉めようとするのを渾身の力で押さえる。
 だが一松さんの殺意は半端ない。

「悪いな。視界に入るだけでもうっとうしい人間のクズが部屋にいて。
 そばにいてほしくないんだろ? 目の前から消えて二度と現れてほしくないんだろ?
 安心しろよ、もう二度と目の前に現れないから」

「いえそれ、私が物理的に消えるからじゃないですかっ!?」

 指がぶるぶるする! 何で体力なさそうなのに、力が強いのっ!!

「そもそもここは、私に与えていただいた部屋なんですが!!
 なのに日がな一日すみっこで膝を抱えられてると、いつしか地縛霊と間違えそうなんですよ!!」

「へえええー」

 ますます相手の力が強くなる。
 指が! 指がっ!! 徐々に一松さんの姿が見えなくなる。
 かくして私が永久に押し入れの中に閉じ込められようとしたとき。

「あれー? 一松兄さん、何してんの!?」
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