第8章 派生④カラ松END
閉鎖されてるはずの研究所には明かりがついていた。
懐中電灯らしき光が、中で慌ただしく動いてる。
私も中に入ろうかな。で、一松さんと上手いことすれ違って……いやダメだ。
私が濡れネズミすぎる。絶対バレる。
疲れた。本格的に暗くなってくるし、雨は止まないし。
そうこうしているうちに、研究所から一松さんが出てきた。
……ダメ。今、出て行ったらダメ。
一松さんは傘も差さずに、雨の中、飛び出していく。
あれ? 慌てていて、研究所の鍵をかけずに行った!? ラッキー!
私は立ち上がり、茂みから出ようと――。
「……っ!!」
いつ忍び寄られたのだろう。誰かに背後から抱きすくめられた。
「!?」
もちろん一松さんではない。とっさのことにパニックになり、暴れると、
「わっ!!」
押し倒された。敷地内周辺は人通りが少なく、さらにどしゃ降り。
ヒヤリとするものが背筋を駆ける。が。
「……カラ松お兄さん!?」
「…………」
ホッとしたのか、捕まったという失望かは分からない。
とにかくカラ松さんだった。
そでをまくったつなぎ姿で、もちろんびしょ濡れ。
あちこちから水滴を垂らし――無表情に私を押し倒している。
で、何で押し倒してるの? 意図がよく分からない。
それより、これとよく似たことが前にもあったような……。
『松奈……好きだ……』
幻聴が聞こえた気がした。
私の肩をつかむ手が痛い。カラ松さんはゆっくり、ゆっくり私に顔を近づける。
唇が触れるかという近さになり、初めてカラ松さんが震えていると知る。
「松奈……俺は、君のことが……」
雨で何を言っているのか、よく聞こえない。
私はカラ松さんを見上げる。
鋭い眉がよく見え、間近に見えるアザが痛々しい。
どうしてだか、切り裂かれるように胸が苦しい。
「痛くありませんか?」
手を上げ、カラ松さんの頬のアザを撫でた。
「――っ!!」
カラ松さんがバッと起き上がる。
「うわっ」
電光石火の速さで私を抱き起こすと、手を引っ張って茂みを出た。
「一松っ!! 松奈がいたぞっ!!」
大声で叫んだ。
すぐにバシャバシャと走る音がし、一松さんが駆けてきた。