第8章 派生④カラ松END
『ったく。あの馬鹿松! どこまで空気が読めないんだよ!!』
『事の元凶がケンカの仲裁をしようとか、もうサイコパス?』
『むしろ確信犯じゃないの? ワザと事態を悪化させて別れさせようとか』
『えー!? カラ松兄さんは一松兄さんと松奈を別れさせたいの!?』
『知るか。とにかく二人を探しに行こう。下手すると殺り合ってるぞ』
『あー、面倒くさいなあ、もうー!』
『パチンコ行きてー!』
そして玄関が開けられ、ぴしゃりと閉まる音。
後には沈黙。
………………
…………
……
今朝は、ドラマで言うところの修羅場であったらしい。
私は二階で洗濯物を干していたため、修羅場の最初の方を見ていない。
それは六つ子の朝食の席のことだったそうな。
顔のあちこちに青あざを作った次男が口を開いた。
『な、なあ一松……』
他の兄弟たちは心臓が飛び出る思いだったそうだ。
『……ンだよ、クソ松』
案の定、話しかけられた一松さんは最高に不機嫌な顔だった。
一瞬、それにひるんだカラ松さんだったが、思い切ってこう言ったらしい。
『その……松奈をデートに誘ってやったらどうだ?
昨日、松奈も一松とデートしたいと言って――』
一松さんにとって、最大級に地雷な発言だったらしい。
『てめえ!! 馬鹿にしてんのかっ!!』
一松さんは、カラ松さんにつかみかかり、馬乗りになって殴りかかった。
『止めろ一松っ!!』
『一松兄さん!』『落ち着いてっ!!』
『い、一松。俺は別に馬鹿にするつもりは……』
『カラ松! てめえは黙ってろ!!』
そこでヒロインたるこの私の登場である。
私松奈。騒ぎを聞きつけ、物干し台からエプロン姿で走ってきた。
見れば、カラ松さんに殴りかかろうとしている一松さん。
『一松さん!? いったいどうされたんですか!?
止めてっ!! カラ松お兄さんがケガしちゃいます!!』
とっさにカラ松さんの前に立ち、かばった。
深い意味があったわけではない。
カラ松さんはケガをしているから、これ以上殴られたら大変だと。
一松さんはピタリと止まってくれた。
けど、引いたわけではない。
敵意の対象を、私にスライドしただけだった。