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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 今度は部屋のすみではなく、ちゃぶ台の真ん前に座られた。
 さっきよりもジーッと見られてる。私のペンを持つ手がぶるぶる震える。

 目の前の陰険男は、緑茶を飲み、片手で頬づえついて楽しそうだ。
 にゃーと鳴く猫がうるさい。皮をはいでやろうか。
「ほら。早く書かないと時間が無くなるよ?」
「わ、わ、分かってますよっ!!」
 挑発には屈するまいと、堅実に一行一行埋め――。

「あ」
「あ」

 猫が走った。湯飲みが倒れ、書きかけの履歴書が……。

「あ、ごめん」

 ニヤニヤ。
 
 私は無表情にちゃぶ台を回ると、座っている一松さんの胸ぐらをつかむ。
 重いから持ち上げられんけど。

「お聞きしましょう。何故、足を引っ張ろうとするんです」

「別に俺、何の邪魔もしてないけど? ちょっと被害妄想なんじゃない?」

 嘘つけ!! 昨日、少しでも優しいと思った私が馬鹿だった!! 
 仕方なく手を放し、
「今度邪魔したら、お母さんに言いつけますよ!?」
 ちょっとイケてない脅し言葉だが、相手が×ートなら有効だ。
 実際一松さんはチッと舌打ちし、猫を抱えて壁際に行ってしまった。
 何だかスネているようにも見えるが。

 ……部屋から出てけよ。

 …………

「よし、終わりました!」
 どうにか書き上げ、先日の残りの証明写真を貼り付ける。
 時間ギリギリだ。慌てて身支度をし、玄関まで小走りに急ぐ。
 のそのそとついてきた弱者……じゃない、一松さんを振り返り、
「じゃ、私は面接に行って参りますので、お留守番を――」


「一件だけ面接の返事来てないけど。家にいなくていいの?」 


 固まる。


 ちなみに私は携帯を持ってない。持たせてくれと言える身分でも無い。
 しかもこの、中身が昭和な平成生まれどもは、末弟を除いて携帯電話に疎いらしい。
 日常的に使用してるのはトド松さんだけだ。

「一松さん。その、もし来たら、代わりに電話を……」
「へー。俺に電話を取らせていいんだぁ?」
 にゃんこを撫でながら笑う。
 て、てめえ! さっきは普通に電話を受けてただろうっ!!

「俺、どんな受け答えをするか分からないけど。例え採用でも、それで向こうも考え直すかもなあ」
「ぐっ!」
 私は時計を見る。今行かないと、面接に間に合わない。
 だけど採用の電話が来るかも。
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