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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第8章 派生④カラ松END



「こ、子猫ちゃん。頬に返り血がついているのだが」
「やだなあ、カラ松お兄さん。これは医療用血液ですよ」
「血の靴跡が見えるのだが……」
「殺人事件でもあったんでしょうか。日本の治安も危うくなってきましたよね。
 ではとりあえず一時間分――」

 怯えるカラ松さんに万札を渡そうとすると、

「い、いやダメだ。子猫ちゃん! 君にはすでに恋人がいる。これは許されざる道だ!」

「大げさに考えないで下さいよ。ちょっと遊んでほしいだけですって」

 え? おそ松さんと遊べば良かったって?
 奴からは、真性のクズの臭いがする。
 奴は条件さえ整えば、夜這いだって平気でしかけてくる男。そんな気がする。

 まああんなクズニートに襲われるような女の子なんて、よほどのアホでない限りいないだろうが。

 カラ松さんは私から顔をそらす。
「だ、だが、もし、一松に見つかったら……その、悪いし……」
 歯切れが悪い。冷酷非道な弟に、そこまで深い兄弟愛をお持ちだったとは。

「私は別にいいですよ、見つかっても」
「いや、それでもダメだ!」
 カラ松さんは弟への義理を貫くつもりのようだ。
「何でそこまで拒否るんです。私って、そんなに連れ歩きたくない顔なんですか?」
「そんなわけがないだろう!」
 思い切り否定され、通行人の皆さんが一斉にこちらを見る。
 カラ松さんは気づいた様子もなく、

「……恋の歯車が、回り出すかもしれない」

 いつものカラ松さんな答えが返ってきた。
 恋の歯車って、私がカラ松さんを好きになるってこと?

 どんだけ自意識過剰なんですか、このお兄さんは。
 だがカラ松さんは苦悩の表情で顔に手を当て、ご自分の世界に陶酔。

「深き海の底に封印されし十字架。解き放ってはならぬ堕天使が、鎖から解き放たれ、大空に羽ばたくかもしれない。それは回してはならぬ恋の歯車。
 そう。俺たちは共にいることを禁じられた、悲劇の片翼――うわ!?」

 聞くのに飽きた私は手を伸ばし、カラ松さんの髪をわしゃわしゃとかき回す。

「子猫ちゃん、何を……?」
 うん。かなりボサボサになったな。私はカラ松さんにお札を一枚渡し、
「そこの店でパーカーとジャージを買って着替えてきて下さい」
 カラ松さんは押され気味に、

「このお札、褐色の染みがついていないか?」

 細かいことは気にしない。

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