第1章 最初の一ヶ月
くう。めげないんだから。一回だけOKをもらえばいいだけなんだから!!
「書かないの? 履歴書」
「か、書きますよ。書くに決まってるでしょ!?」
「次は間違えないといいな」
ささやかれる低音(煽りつき)、にゃーと鳴く猫。
「気をつけて書くから大丈夫です」
「気をつけて書いても、落ちたら終わりだけどな」
な、殴りてえ。殴りてえ、このクソ×ー×っ!!
だが相手にしていられない、そして私は大股で六つ子の部屋に入る。
あった。チョロ松さんがよく読んでいる無料求人誌の最新版がちゃぶ台に乗っていた。
「それにしても……」
求人誌をペラペラとめくると、あちこちに丸がついてたり、赤線が引いてあったりする。
その割にチョロ松さんが履歴書を書いたり、面接の電話をしてる姿って、見たことがない気がするんだけど。
「チョロ松お兄さんはどちらに?」
またしても横にいる一松さん。私は猫の喉を指先でくすぐり、聞いてみる。
「さあ。またアイドルの地下ライブじゃねえの?」
「……。まあいいや」
深くは問うまい。条件の良さそうな短期バイトの連絡先をメモした。
よし。
私はまた玄関先に戻る。
無職……もとい、一松さんの黒いオーラを背後に感じつつ黒電話のダイヤルを回す。
「すみません。短期アルバイトの応募の件でお電話させていただきましたが……」
緊張しつつ話し出す。
「……はい、日勤での応募で。はい、はい。分かりました。
では三時に。履歴書ですね。ありがとうございました。失礼いたします」
チン、と受話器を置く。とりあえずこれでスタートラインである。
今、電話をかけた先はまさに『急募!』という感じのとこ。
よほどのマイナス案件がない限り、来る人を順番に採用する系だ。
面接の時間が迫ってるが、急ぐしかな……。
「何すか、一松さん」
猫を抱えた一松さんが、ドス黒いオーラを出している。
私はその闇のオーラに後じさりつつ、
「し、仕方ないでしょうが!! 私はお金を稼ぎたいし、居候の立場に甘んじる気はないし!!」
「別に俺、何も言ってないけど? さっさと書いて、とっとと仕事を決めれば?」
「いいいい言われなくとも! 邪魔しないで下さいね!!」
大股で部屋に戻り、ちゃぶ台の前に座り、履歴書を……。
な ぜ 目 の 前 に 座 る 。