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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 就活は行動力が勝負。一件一件の採用連絡をのんびり待たず、面接を次々に受けねばならない。
「あっそ」
 一松さんは部屋のすみに座り、喉を鳴らすにゃんこの頭を撫でている。

 ……なぜ私の部屋にいる。一松さん。
 だが追い出すと祟られそうなので、放置することにした。

 外は腹立たしいほどに天気が良い。
 私は集中し、一行、また一行と履歴書を埋めていく。
「そういえばさっき電話がかかってきてさ」
 一松さんがボソリ。私はペンを止めない。

「不採用だって」

 ピクッと私の手が止まる。
「そ、そうですか。まあ仕方ありません。面接には色んな方が来られますし」
 冷静に冷静に。着実に行を埋めていく。一松さんは膝を抱えたまま私を半眼で見、
「一時間前にも電話がかかってきて」
 ピクッと、また私の手が止まる。
「今回は残念ですが……だって」
「あ、あ、あ、あちらも色々事情がおありですから」
 気のせいだろうか。こちらを見る一松さんが黒い笑みを浮かべているような。
 そのとき、玄関先でジリリリ……と黒電話が鳴る。
「あ」
「取ってくる」
 立ち上がろうとするより早く、一松さんがにゃんこを抱え、去って行く。
 気のせいだろうか。やけに軽快な足取りだ。
 そしてすぐ戻ってきて――。
「さっきの電話……」
「また不採用だったんでしょう!? いちいち楽しそうにしないで下さいっ!!」
「してない。それとここ、送り仮名が抜けてない?」
 トントンと間違いを指さされ、
「だあああああっ!!」

 イライラで履歴書を破り捨てる。
 陰険野郎は部屋のすみに戻り、楽しそうにこちらを見ながら膝を抱えている。
 つか何で私の部屋にいるんだ! 兄弟の部屋でカビを生やしてればいいだろう!!
 そしてまた黒電話が鳴る。

「私が取ってきます!!」
 敵が立ち上がるより先に黒電話に走り、

「はい。えーと、ま、松野、です」

 ……省略。

 チン、と受話器を置き、肩をふるわせていると、
「どうだった?」
 猫を抱っこした男が真後ろから話しかけてくる。

「だから楽しそうな顔をしないで下さい!!」

「してない。残念だったね」

 絶対そう思ってないだろうっ!!
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