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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 何となく、また泣きそうになった。
 でもどうにか抑え、ちょっと下を向く。
「廊下……暗いから、部屋まで送る」
 ボソッと一松さん。

「は、はい。じゃ、おやすみなさい」
『おやすみ~』
 と五人の声がそろった。


 …………

 私を部屋の前まで送り、一松さんはうなずいた。
「じゃ」
「はい。どうも……あの……」
 一松さんは、私のことも、私が気づいてることも知ってる。
 いや皆が皆――正確にはお父様以外?――、互いに事が露見しているのを半ば承知で、でも『何か』を続けようとしている。

『何か』って何? 

 転がり込んだ赤の他人を家族扱いし、バレていることに気づかないフリをするゲーム。

 そんなことをする理由は……人助け?

 つまりこの問題ありありな松野家は、とてつもなく懐の広いお人好しの一家ということらしい。

「おやすみ」
「お、お、おやすなさ――」
 背を向けようとする一松さんに、返答しようとして。

「おいっ」

 ついに涙がポロッとこぼれた。こらえようとしても、一度こぼれると止まらない。
「泣かれても困る」
「ごめ……んな……」
 でも止まらない。けど誰かに聞こえたら心配させる。けど嗚咽(おえつ)が……。

「松奈」

 抱き寄せられた。
 私はそのまま一松さんの胸に顔をうずめ、静かに泣く。
 ためらいがちに髪を撫でる手。聞こえる鼓動がやけに早い。
 私が泣き止むまで、一松さんは抱きしめてくれていた。

「ありがとう。一松……兄さん」

「……ああ」


 こうして私は、松野家の妹を演じることを『始めた』のであった。

 …………

 …………

「松奈、起きなよ」
 

「ん……」

 誰かが私を揺さぶっている。

「松奈、起きなよ、松奈」

 いやー。起きたくない~。

「……あと……五百時間……」

「死ぬまで寝てるつもり!? ほら朝ご飯……ていうかほぼ昼ご飯がとっくに冷めてるから!」

 警告なのか報告なのか分からない言い方に、眠い目を開ける。
 そこにはパジャマ姿の……えーと……未だに難易度高いな。この六つ子当てクイズ。

「えええーと……トド松お兄さんですか?」

「はーい残念、チョロ松お兄ちゃんでしたー。ほら起きる起きる!」

「いーやー」

 腕を引っ張って起こされた。
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