第7章 派生③おそ松&チョロ松END
「松奈……」
壁に背を押しつけられ、抱きしめられ、身体を密着させられながらそう思う。
いや最初は良かったんですよ。
二人で映画に行って、カフェに行って。チョロ松さんが『な、何か俺たちってカップルに見えてるよね』と顔を赤くしながら言うのを、微妙な気分で聞いて。
私はというと、ちょうど二人きりになったので、ここぞとばかりに説得した。
『おそ松お兄さんに話して、この前の写真を全消去してほしいんです』
『お二人とも素敵な方ですし、私なんかより、いくらでも素敵な人が見つかると思うんです』
『私もそのうちいなくなりますし、私の存在はもう、無視していただければ……』
チョロ松さんはコーヒーを飲みながら、神妙な顔で何度もうなずいていた。
『そうだね。うちで嫌な思い出を作って、帰ってほしくないよ』
『一松にもすごく悪いと思ってる。おそ松兄さんのやることはひどいよね』
いや、乗っかったあなたも共犯でしょうが。
……と思ったけど、クズ長男とクズ三男の結束にヒビを入れるのが先だ。
『どうかお兄さんの説得をお願いします。私、一松さんしか見えていないんで!』
たたみかけると、チョロ松さんは一瞬だけ悲しそうになったけど、
『分かった。任せておいて!』
と力強くうなずいたのだった。
それから一時間後。どうしてこうなった。
『最後に寄りたい』と言って連れて行かれた場所で、襲われた。
「松奈、舌、出して……」
廊下に背中を押しつけられ、キスを何度もされている。
声が反響する。かび臭い。人の気配はしないし、誰かがいる様子も無い。
「ここが気になるの? 大丈夫、ちゃんと下見はしたし、入り口もふさいでおいたから」
『大丈夫』とは、あなたにとっての『大丈夫』では?
被害者の私にとっては誰かが来てくれることこそが、『大丈夫』につながるのですが。
あと薄暗すぎて、ちょっとオバケが怖い。
まあチョロ松さんなら撃退してくれそうではあるが。
この場所は放置された空きビルの一つらしい。
内部は無人で、割ときれいだった。
だが間違っても女を連れ込む場所では無い。
彼もクズニートの一員ということを、もう少し肝に銘じておくべきだった。