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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



「さ、寒い!」

 店から出ると現実が襲いかかってくる。
 と、そこではたと気づいた。
 この町を出て行くと決意したのに、一松さんに会ってしまった。
「何でこの場所が分かったんです?」
 一松さんはにやっと笑い、ポケットから何かを出した。
 三千円だ。

「あ、なるほど」

 そして、頭に軽い痛み。ごく軽い力で叩かれたのだと分かった。

「イヤミがもっと危ない場所に案内してたら、どう逃げるつもりだったの」
「どう逃げるつもりって……」
 私も馬鹿では無いから、言わんとすることは想像がつく。
「でも私――」

 そんな心配されても、あなたとは何の関係もないし。

「帰るよ」

 手を握られた。振り払えない。

「皆、心配してる」

 さっきまでコントローラーを握っていた手は、まだ熱い。
 逃げる勇気もないまま、人通りの無い表通りに出ると、
「松奈っ!!」
「いた! いたよ、おそ松兄さーん!!」
「松奈ちゃーん!!」
 他の五人の兄弟たちが走ってきた。

「あ、あの……」

 つい一松さんの陰に隠れてしまったが、
「松奈ーっ!! 良かったー!!」
 十四松さんに抱きつかれた。いや頬ずりしない、頬ずりしないっ!!
「良かったね。どこに行ってたの? 心配したんだよ?」
 トド松さんが背中を叩いてくれる。
 しかしこの人、一見優しそうだけど、さっきは一番シビアでしたよねー。
「さ、帰ろう、松奈」
 長兄のおそ松さんが微笑んでくる。
「……はい」

 涙がこぼれそうになったのを抑え、私は一松さんに手をつながれ、松野家に帰って行った。


 ……で、終わるはずがなかった。



 午前を回った松野家は、明かりが消えていた。
「良かった、母さん寝てるみたい」
 チョロ松さんがそーっと引き戸を開ける。
「よし、音を立てずに上がるぞ」
 カラ松さんが言い、皆、足音を立てないよう――。

「帰ったようね」

『っ!!』

 全員、心臓が止まるところだった。
 暗闇の中、玄関の上がり口に小柄な影が仁王立ちしていた。
 お母様である。

「松奈っ!! おまえ達っ!! ちょっとこっちに来なさいっ!!」

 そして特大の雷が落ちたのであった。
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