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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 お金はゆったり減り、時間もそれなりに過ぎていく。
 他のプレーヤーからちょっかいをかけられることもなく、夜勤の店員さんはウトウト。
 レコードは聴いたことのない洋楽を流している。

 このまま朝まで過ごせそうな気がしてきた。
 朝になったら始発に乗って、どこか遠い町に行こう。
 その後のことは、それから考えよう。
 陰鬱な気分にわずかな光が差し、私はさくさくゲームを進めていく。

「よし、ハイスコア、ハイスコア♪」

 て、操作をミスった! うわあああ! インベーダーが真上の段に!!
 もうダメだ!! せっかくハイスコア直前だったのにー!!
 私は絶望的な気分で、次のプレイをすべくポケットの百円を探ろうとした。

 もう残機もゼロ。ハイスコア目前で、虚しく全滅――。

 そのとき。

「どいて」

 誰かが横から割って入ってきた。

「え……?」
 操作は鮮やかだった。
 流れるような弾がインベーダーの群れをなぎはらっていく。
 そして『ハイスコア更新!』の表示。私は呆然とする。
 インベーダーは最下段まで来ていたから、絶対に弾が自機に当たってるはずなのに。

「何で逆転出来たんですか?」
「名古屋撃ち」

 無表情に言うのは一松さん。
 一松さんは私を少しどかし、本格的な戦闘態勢に入る。

「一番下の段にいる敵の弾なら、被弾しても死なないってバグがある。
 それを利用したテクニック」

 おおおおおっ!!

 そしてインベーダーは全滅し、次なる侵入者たちの群れが頭上に現れる!!

 私はすっかり傍観に徹してしまった。
 一松さんは眠そうな顔で無駄の無い操作。
 スピーディーに敵を殲滅(せんめつ)させていく。
 ハイスコアをサクサクと更新していった。
「すごいすごい!!」
 私は手を叩き、神プレーヤーのテクに飛び跳ねんばかりだった。

「ここまで」

 でも一松さんは、あえて途中で負けて終わらせてしまった。
『GAME OVER』の悲しい表示が出て、タイトル画面に戻る。

「ええ~」
 このまま行けば、店の壁に貼られた『最高得点』も更新出来そうなのに。
「また見せてやるから」
 と、怠そうに立ち上がる。壁の時計を見ると、日付が変わる時刻だった。

 一松さんは店員さんを起こし、コーヒー代を払うと店を出た。
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