第1章 最初の一ヶ月
変態研究者は古典的な血しぶきを『ぶしゅー』っと、頭から流し、表情を一切変えずに、
「わかっただス。何とか三ヶ月で修理してみるだス。何とか君を元の世界に戻せるようにするだス」
三十年が三ヶ月になり、私は怒りを引っ込め、荒い息で肩を上下させる。
元の世界に帰れそうだと分かり、興奮は多少収まった。
安堵すると同時に、もう一つ気になることがある。
「あの、私は記憶喪失みたいなんですが、その理由は何なんですか?」
未だに自分の名前も思い出せない。制服を着られるくらいの歳みたいだけど、それ以上のことがどうしても分からない。
「転送のショックだスなあ。まあ元の世界に戻れば勝手に直るだス……多分」
完全に人ごとである。私はこぶしを震わせつつ、
「じ、じゃあよろしくお願いしますよ。で、三ヶ月間、私はどの部屋に泊まればいいんですか?」
だが白衣にパンツ一丁の変態は表情を変えずに言い放った。
「ここは閉鎖するだス。三ヶ月後にここに戻るから、その間どこかで過ごしていてほしいだス」
「はあっ!? ここに置いてくれるんじゃないんですか!?」
「次元転送装置を作り直すため、アメリカまで行って材料を集めなければならないだスよ。
渡航費用もこれから貯めるから、君も生活費は自分で何とかしてほしいだス」
「はああああ!? 別の世界から私をつれてこれるんだから、材料も転送させればいいでしょうが!」
「君を引っ張ってきたショックで全ての装置が故障してしまっただス。長年苦労して作ったんだスがなあ~」
「淡々と言わんで下さい! 私が加害者みたいじゃないですかっ!!」
私は混乱極まり涙目である。
「そんな、いきなり連れてこられて三ヶ月間、お金も無しに生き延びろとか言われても、どうすればいいんですか!!」
すると変態博士は立ち上がり、ホエホエーとパンツの中から二錠の薬を取り出す。
……て、パンツの中からっ!?
「これを使うだス」
「いや触りたくもないっすよ! オッサンのパンツの中から出てきたブツなんて!!」
「これは『カゾクニナール』と言う薬だス。これを飲んだ相手は、君のことを心から愛する家族だと思ってくれるようになるだス」
ドラ○もんの道具みたい。名付けのセンスが最低であるが。