第1章 最初の一ヶ月
すぐ横のパチンコ屋の自動ドアが開き、思考が中断された。
私はフラフラと歩き、誰が出てきたなど、見もしない。昼間からギャンブルに興じる××どもが。
私の後ろでガヤガヤと若い男性たちの声。
「あ~あ、また大負けしちゃったよ~」
「フ。一度負けても永久に続くのだ。人生というなの遊戯はな!」
「もうヤケクソだ! どこかに呑みに行こうぜ」
うわあ、まだ昼間なのに、パチンコに加え、居酒屋か。
軽く引いてしまい、ついチラッと振り返る。
え。
同じ顔が……六つ?
疲れで残像でも見たのかと思った。
だがその六つの背中は、そのまま角を曲がり、路地裏へと消えていった。
私はしばらく立ち尽くし、額の汗をぬぐう。
「つ、疲れたんですね」
そして上着のポケットに手を滑らせた。
そこには小瓶がある。小瓶には、とある変態研究者からもらった『薬』が二錠入っている。
「……早く、寄生先を見つけないと」
異世界に来てしまい、家も金もコネも、身分を証明する物も何一つ持っていない私にとって、この薬が最後の砦だった。
どうしてそんなことになったかというと。
…………
半日前のこと。私はまだ研究室にいた。
絶叫の末、どうにか服を用意してもらい、テーブルに着席し、詳しい事情を聞いていた。
「実験で、別の世界から私を引っ張ってきたぁ!?」
怒りでテーブルにグラスを叩きつける。
ファンタジーだ、SFだ。ありえない。だが現に私はここにいる。
そして元の世界での自分のことを、何一つ覚えていない。
だが白衣にパンツ一丁の変態研究者は悪びれた様子もなく、
「ワスは研究の一環で、別の世界から物を引っ張り込む実験をしていただス」
サラッとギャグ漫画のようなことを言ってのける。
しかし、のほほんと言われても納得出来るわけがない。
つか背後のでかい口の変態メイド怖ぇ。無言でマジ怖ぇ!!
「今すぐ元の世界に帰して下さい、今すぐにっ!!」
胸ぐらをつかみ上げんばかりに――相手が白衣にパンツ一丁の格好だったので、出来やしなかったが――身を乗り出すと、
「次元転送装置が壊れただスからなあ。修理には時間がかかるだスなあ」
「どのくらいかかるんです?」
「ザッと三十年だス」
グラスを博士の頭に叩きつけた。
「三日で仕上げて下さいっ!!」