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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 すぐ横のパチンコ屋の自動ドアが開き、思考が中断された。
 私はフラフラと歩き、誰が出てきたなど、見もしない。昼間からギャンブルに興じる××どもが。
 私の後ろでガヤガヤと若い男性たちの声。
「あ~あ、また大負けしちゃったよ~」
「フ。一度負けても永久に続くのだ。人生というなの遊戯はな!」
「もうヤケクソだ! どこかに呑みに行こうぜ」
 うわあ、まだ昼間なのに、パチンコに加え、居酒屋か。
 軽く引いてしまい、ついチラッと振り返る。

 え。

 同じ顔が……六つ?

 疲れで残像でも見たのかと思った。
 だがその六つの背中は、そのまま角を曲がり、路地裏へと消えていった。


 私はしばらく立ち尽くし、額の汗をぬぐう。
「つ、疲れたんですね」
 そして上着のポケットに手を滑らせた。
 そこには小瓶がある。小瓶には、とある変態研究者からもらった『薬』が二錠入っている。

「……早く、寄生先を見つけないと」

 異世界に来てしまい、家も金もコネも、身分を証明する物も何一つ持っていない私にとって、この薬が最後の砦だった。

 どうしてそんなことになったかというと。
 
 …………

 半日前のこと。私はまだ研究室にいた。
 絶叫の末、どうにか服を用意してもらい、テーブルに着席し、詳しい事情を聞いていた。

「実験で、別の世界から私を引っ張ってきたぁ!?」
 
 怒りでテーブルにグラスを叩きつける。
 ファンタジーだ、SFだ。ありえない。だが現に私はここにいる。
 そして元の世界での自分のことを、何一つ覚えていない。

 だが白衣にパンツ一丁の変態研究者は悪びれた様子もなく、
「ワスは研究の一環で、別の世界から物を引っ張り込む実験をしていただス」
 サラッとギャグ漫画のようなことを言ってのける。
 しかし、のほほんと言われても納得出来るわけがない。
 つか背後のでかい口の変態メイド怖ぇ。無言でマジ怖ぇ!!

「今すぐ元の世界に帰して下さい、今すぐにっ!!」

 胸ぐらをつかみ上げんばかりに――相手が白衣にパンツ一丁の格好だったので、出来やしなかったが――身を乗り出すと、

「次元転送装置が壊れただスからなあ。修理には時間がかかるだスなあ」

「どのくらいかかるんです?」

「ザッと三十年だス」

 グラスを博士の頭に叩きつけた。

「三日で仕上げて下さいっ!!」

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