第6章 派生②一松&十四松END
…………
「松奈、大丈夫? ごめんね」
道すがら十四松さんは何度も聞いてくる。だが私は、
「ちゃんと水や石けんがあるとか!用意がいいですよね。この犯罪者!!」
蹴りを入れて入れて、さらに入れても収まらない。
「ごめん。ごめんってば松奈~」
「次はせめてホテルにして下さい、あんなマニアックな場所、女を連れ込む場所じゃないでしょう!」
「松奈~。許してよ。だからきれいな部屋もあったのに、松奈が可愛かったから、我慢出来なくて……」
「大声で言わないっ!!」
さらに蹴り。でも逃げ回る十四松さんに苦笑もする。
……あんなことがあって、何で笑えるのか。
おかしいんじゃないか、私。
月明かりの中、おかしい私たちは家路を急ぐ。
そして道の向こうに一松さんが迎えに来る。
一松さんはいつもの通り、パーカーにサンダルでだるそう。
「一松さん!! 猫さんは大丈夫だったんですか!?」
「ん。ちょっと脱水してただけだったみたい。もう路地裏に帰ってるよ」
「良かった~」
ホッとして胸をなで下ろす。
「一松兄さーん!」
嬉しそうに後から走ってくる十四松さん。一松さんはかすかに笑い、
「楽しんだみたいじゃない」
「うん。すっごく楽しかったよ!!」
と笑う。
「じゃあ、帰ろうか」
『はーい』
と笑い、私たちは並んで帰る。
そして一松さんが小さく十四松さんに、
「……そっちの猫は逃げたりしなかった?」
「大丈夫! ちゃんとエサをあげといたから!!」
得意そうな十四松さん。
その言葉に切り裂かれそうになりながら、私は笑う。
さっきまでの会話は一松さんといるときは交わさない。
でも何があったかは、多分知られている。
そして道の向こうから他の兄弟達が来る。
「おーい、松奈ー!」
「何時だと思ってるの、また母さん、カンカンだよー!」
「あはは。十四松さんがもう一回観たいって言って――」
私が笑うことで保たれる平和。
私が合わせることで、用意してもらえる居場所。
「行こう」
十四松さんに手をつながれる。
それが愛情ではなく拘束だと分かっていても。手をふりほどけない。
「はい」
私は笑顔で歩く。
そして優しい人たちに囲まれ、私は私の檻に帰っていった。
――END