第6章 派生②一松&十四松END
「いやいやいやっ!! 私、それ食える化け物じゃないっ!!
私、並盛り&トッピングなしで! あと券売機ありますからね、十四松さん!?」
怖ぇ!! 男の胃袋って怖ぇっ!!
見るだけでメタボになりそうな量を、軽々とかきこむ十四松さんには恐怖すら覚える。
賑やかな食事が終われば終わればで、とっとお店を出……。
「よっしゃー!! ホームランゲットでありまーす!!」
「さすが赤塚区……10円ゲーム機が生き残っていようとは……」
昭和の駄菓子屋の店頭に置いてあったような、10円のピンボール系野球ゲーム。
平成の子供は絶対に遊ばないようなレトロゲームを、慣れた様子で嬉々として遊ぶ十四松さん。
ここはビルとビルの間にあるような、人通りの無い寂しい場所。
景品チケットが出たところで交換してくれるお店屋さんもなく。
なのに十四松さんは一人、大はしゃぎ。
私は苦笑しながら、十四松さんの背中を眺めた。
楽しい、とても楽しい時間だった。
…………
…………
気がつけばカラスが鳴く時間帯だ。
表通りに続くらしい道を、私と十四松さんは並んで歩く。
やれやれ。今日も引っ張り回された。いつになったらアルバイト探しに行けるんだろう。
「十四松さん、そろそろ帰りましょうよ」
「松奈、松奈。最後に僕の秘密基地を教えてあげる」
「秘密基地?」
「今日は久しぶりに松奈と二人きりだし」
そうかもしれない。
最近の行動パターンは『一松さん+私』か、『一松さん+十四松さん+私』。
『十四松さん+私』の日は意外に少ない。
あったところで適当に散歩するか、なぜか区内に存在する謎の浜辺で、十四松さんの素振りを見て終わってしまうかだ。
「今日は松奈を独り占めに出来て、本当に楽しかったー!」
楽しそうに私を引っ張る。
その笑顔があまりにもまぶしいから、断ることも、振り払うことも出来ない。
私は、この世界に他に居場所がない。
「ここだよ! さあ入って!」
十四松さんが扉を押すと、重い音がして、ゆっくりとビルの裏口が開いた。
「路地裏に、こんな廃ビルがあったんですね」
ビルには何とか商事と書かれた、色焼けした古看板がついているだけ。
人の気配はない。照明はとうに切れ、エレベーターも動いていないようだ。