第6章 派生②一松&十四松END
元の世界なら、とうに蹴り出されているか警察に通報されているだろう。
でもここでは何一つ責められることなく、出て行くように、ほのめかされることさえ無い。
六つ子の料理や洗濯をし、酔って帰ってきたら介抱して、たまに暇つぶしにつきあって。
時には彼らの就活やバイト探しの後押しをして――まあ長続きはしないけど。
たったその程度のことで可愛がられ、養われている。
それが、私が手に入れた幸せ。
……そのはずだ。
映画館で、パンフ片手に、十四松さんは子供みたいに大はしゃぎだった。
「松奈、松奈、コーラとポップコーンを買おう!!」
「うわ、大きい。ラージサイズって食べきれるんですかね?」
「大丈夫! ちゃんと松奈にも分けてあげるから!」
「自分一人で食べる前提!?」
席に座っても十四松さんは落ち着かない。
「でね、この選手がすごいんだよ! 入団した翌年に打率四割!! 新人王に輝いて、試合連続出場記録は――回で、最多連続安打は――」
「十四松さん、もう少し小さな声で……ほら、ポップコーンがこぼれちゃってる。
ダメですよ。ほら前の席を蹴らない!!」
小さな子の面倒を見てる気分だ。
映画が始まってからも、鑑賞スタイルがアメリカン。コメディのシーンでは遠慮無く大声で笑い、しんみりするシーンでは声を立てて泣き出したり。
おかげで周囲からずいぶん白い目で見られ、冷や汗をかいた。
…………
「十四松さん。笑うのも泣くのもいいけど、声はなるべく出さない。音を立てて
ポップコーンを食べない! トイレに行くとき道を開けてくれる人には『すみません』と一声かける!」
「は~い」
鑑賞後のお説教タイムで、十四松さんは叱られた子犬のようだった。
でもすぐに笑顔になり、私の手を引っ張る。
「やっぱりポップコーンとコーラだけじゃ、お腹がすくよね。ラーメンを食べに行こうよ!
安くていーっぱい出してくれるお店、僕、知ってる!!」
「ええ? まだ食べるんですか? 私、見てるだけでお腹がいっぱいでしたよ?」
「ほら行こう!」
…………
十四松さんはどこまでもにぎやかである。
「へい、らっしゃーい!!」
「はいはいはーい!! いいっすか!? しょうゆラーメンメガ盛り二人前!! トッピングはね――」