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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第6章 派生②一松&十四松END



「松奈! 松奈! じゃあ二人で映画に行こう!」
「分かりましたよ。十四松さん。あと、つなぎに着替えて下さいね」
「はーい!!」
 ピョンピョン跳ねる十四松さんをなだめる。
 海パンにスリッパという、狂気の格好で映画館に行くのはちょっとご遠慮願いたい。

「おーおー、仲がいいねえ」
「良かったじゃない、十四松兄さん。今日は松奈を独占出来て」
「いやちょっとは猫のことも心配してやれよ」
 松野家は今日もにぎやかで、異物を一人抱えても物ともしない。

「ええと、映画のチケットは……」
 自分の部屋で棚を漁っていると、ふすまが開いた。

『また、こっそりお金を隠してたんだ』

 ビクッとして振り向く。

「あ、ああ。カラ松お兄さん」

 笑顔を作る。今の表情を見られただろうか。

「どうしました? お金なら貸さないですよ~」

 そもそも持っていない。
 カラ松さんの顔に、いつもの気取った感じは無い。
 言葉を選んでいるように何度か口を開いてはつぐみ、やっと、

「松奈……その、何か悩み事があるのなら、この兄に――」
「悩み? 私、悩みがあるように見えますか?」
 微笑んで首を傾げる。

「いや見えない。だが――」
「松奈ー!! 着替え完了したよ!! 映画に行こう!!」
「ぐはっ!!」
 十四松さんがカラ松さんをなぎ倒した。

「何でカラーコーン被ってるし!! てかよく、天井にぶつからずに来れましたね!!」
 カラーコーンを外し、廊下に転がっているカラ松さんを抱き起こしてやる。

「じゃ、カラ松お兄さん。そろそろ行かないと上映時間に間に合わないんで」
「カラ松兄さんも行く? 野球映画、面白いよ!!」
 カラ松さんの顔にしばし逡巡が浮かび、

「いや、いい……だが何かあったら、この兄に相談するんだぞ」

『はーい!』
 となぜか十四松さんまで一緒に私と敬礼。

『いってきまーす!!』
 そして私たちは家を出た。

『いってらっしゃーい』
 ダラダラと過ごす兄たちが二階から手を振ってくるのに振り返す。
 カラ松さんの表情だけ、少し暗い気がしたけど気のせいだろう。


 日々は平和に流れていく。


 私は松野家に転がり込み、いつまでも出て行かない、働きもしない。

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