第6章 派生②一松&十四松END
「松奈! 松奈! じゃあ二人で映画に行こう!」
「分かりましたよ。十四松さん。あと、つなぎに着替えて下さいね」
「はーい!!」
ピョンピョン跳ねる十四松さんをなだめる。
海パンにスリッパという、狂気の格好で映画館に行くのはちょっとご遠慮願いたい。
「おーおー、仲がいいねえ」
「良かったじゃない、十四松兄さん。今日は松奈を独占出来て」
「いやちょっとは猫のことも心配してやれよ」
松野家は今日もにぎやかで、異物を一人抱えても物ともしない。
「ええと、映画のチケットは……」
自分の部屋で棚を漁っていると、ふすまが開いた。
『また、こっそりお金を隠してたんだ』
ビクッとして振り向く。
「あ、ああ。カラ松お兄さん」
笑顔を作る。今の表情を見られただろうか。
「どうしました? お金なら貸さないですよ~」
そもそも持っていない。
カラ松さんの顔に、いつもの気取った感じは無い。
言葉を選んでいるように何度か口を開いてはつぐみ、やっと、
「松奈……その、何か悩み事があるのなら、この兄に――」
「悩み? 私、悩みがあるように見えますか?」
微笑んで首を傾げる。
「いや見えない。だが――」
「松奈ー!! 着替え完了したよ!! 映画に行こう!!」
「ぐはっ!!」
十四松さんがカラ松さんをなぎ倒した。
「何でカラーコーン被ってるし!! てかよく、天井にぶつからずに来れましたね!!」
カラーコーンを外し、廊下に転がっているカラ松さんを抱き起こしてやる。
「じゃ、カラ松お兄さん。そろそろ行かないと上映時間に間に合わないんで」
「カラ松兄さんも行く? 野球映画、面白いよ!!」
カラ松さんの顔にしばし逡巡が浮かび、
「いや、いい……だが何かあったら、この兄に相談するんだぞ」
『はーい!』
となぜか十四松さんまで一緒に私と敬礼。
『いってきまーす!!』
そして私たちは家を出た。
『いってらっしゃーい』
ダラダラと過ごす兄たちが二階から手を振ってくるのに振り返す。
カラ松さんの表情だけ、少し暗い気がしたけど気のせいだろう。
日々は平和に流れていく。
私は松野家に転がり込み、いつまでも出て行かない、働きもしない。