第6章 派生②一松&十四松END
けど一松さんは、いつも通りの顔で言った。
「十四松、手伝ってくれ」
「何を……?」
「俺一人じゃ、難しいことを。俺が、どうしようもない、つまらない、くだらない、普通の……いや普通以下の、人間のクズだからこそ!!
俺一人じゃ出来ないことを――手伝って、くれ」
はあ?
だが十四松さんは何かしら思い当たることがあったようだ。
私と一松さんを見比べ、何かを考えていた。
その様子に、普段の馬鹿っぽいところはなく。まるで別人を見ているような――。
「本当にそれでいいの、兄さん」
「ああ」
「あきらめちゃうの? 自分一人じゃ無理だって。限界だって」
「……ああ」
何が?
二人は沈黙している。一松さんは答えを求め、十四松さんは何かを考えている。
でも肝心の私は、発言権を与えられず置き去りにされている。
やがて十四松さんが言った。
「じゃ、協力するよ」
「そうか」
分かっていることは、十四松さんの中で、私より一松さんに天秤が傾いたこと。
「ごめんね。松奈」
一度も見たことの無い顔で、すまなそうに私を見下ろした。
「僕、一松兄さんが壊れる姿は見たくないんだ」
…………
「嫌、嫌っ……! 止めて、放して……っ!!」
布団の上で必死に抵抗しても、男二人に本気で抑えられてはかなわない。
全然意味が分からない。
いったい何が、どういう合意があって二人が私を抱くわけ?
でも叫んでも暴れても、私を組み敷く力が緩むことはなかった。
「窓を閉めてるけど、声大きいんじゃないかな、兄さん」
十四松さんの顔に笑顔はない。目の焦点も、今は合っている。
「口をふさいで。そのうち大人しくなると思うから」
「ん……んぅ……っ……!」
口を閉じようとしたが、ハンカチか何かを噛まされ、はき出させないよう、口に布を巻き付けられた。そして外さないよう、手首を縛られる。
「ごめんね。暴れられるとお互いに危険だし」
「……っ……!……んん……!!」
縛り方はゆるいが、力をこめても外れない。
私は未だについていけない。
一松さんは精神不安定な一面があって、態度が突然変わるのはいつものこと。
だけど、今回はいったい何のスイッチが入った。
しかも十四松さんまで同調するって、どういうことなの。