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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第6章 派生②一松&十四松END




 けど一松さんは、いつも通りの顔で言った。

「十四松、手伝ってくれ」
「何を……?」

「俺一人じゃ、難しいことを。俺が、どうしようもない、つまらない、くだらない、普通の……いや普通以下の、人間のクズだからこそ!!
 俺一人じゃ出来ないことを――手伝って、くれ」

 はあ?

 だが十四松さんは何かしら思い当たることがあったようだ。
 私と一松さんを見比べ、何かを考えていた。

 その様子に、普段の馬鹿っぽいところはなく。まるで別人を見ているような――。

「本当にそれでいいの、兄さん」
「ああ」

「あきらめちゃうの? 自分一人じゃ無理だって。限界だって」

「……ああ」
 
 何が?

 二人は沈黙している。一松さんは答えを求め、十四松さんは何かを考えている。
 でも肝心の私は、発言権を与えられず置き去りにされている。
 やがて十四松さんが言った。

「じゃ、協力するよ」
「そうか」

 分かっていることは、十四松さんの中で、私より一松さんに天秤が傾いたこと。

「ごめんね。松奈」
 
 一度も見たことの無い顔で、すまなそうに私を見下ろした。

「僕、一松兄さんが壊れる姿は見たくないんだ」
 
 …………

「嫌、嫌っ……! 止めて、放して……っ!!」
 布団の上で必死に抵抗しても、男二人に本気で抑えられてはかなわない。

 全然意味が分からない。
 いったい何が、どういう合意があって二人が私を抱くわけ?
 でも叫んでも暴れても、私を組み敷く力が緩むことはなかった。

「窓を閉めてるけど、声大きいんじゃないかな、兄さん」
 十四松さんの顔に笑顔はない。目の焦点も、今は合っている。
「口をふさいで。そのうち大人しくなると思うから」
「ん……んぅ……っ……!」

 口を閉じようとしたが、ハンカチか何かを噛まされ、はき出させないよう、口に布を巻き付けられた。そして外さないよう、手首を縛られる。

「ごめんね。暴れられるとお互いに危険だし」
「……っ……!……んん……!!」

 縛り方はゆるいが、力をこめても外れない。

 私は未だについていけない。

 一松さんは精神不安定な一面があって、態度が突然変わるのはいつものこと。

 だけど、今回はいったい何のスイッチが入った。

 しかも十四松さんまで同調するって、どういうことなの。


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