第1章 最初の一ヶ月
渡された万札で居酒屋での代金は払えた。それを差し引いてもかなり残っている。
とにかく朝までどこかでしのいで、これからのことを考えよう。
「こう、安くて朝までしのげる場所、ないっかなあ」
コンビニで店員さんにジロジロ見られつつ朝まで立ち読み……は精神的ダメージが半端ない。最悪、通報され補導される。
ネットカフェも身分証明が必要だったりするし、微妙だな。
ファミレスも入れるけど、何だか寂しい。
「ゲーセンとか無いかな。あ、すみません。そこの人」
「ん? ミーに用ざんすか?」
「げっ!!」
振り向いたのは、いつぞやのミスター出っ歯――えーと、確かイヤミ氏だ。
こいつが余計なことを六つ子にしゃべらなければと、思わないでもないが。
イヤミ氏は腕組みし、
「前にも会ったザンスねえ。ミーは新しい店の開店準備で忙しいざんす。
こんな夜に若い娘が一人でうろつくもんじゃないざんすよ?」
「あの、朝までやってるゲーセンとか知りません?」
するとイヤミ氏は出っ歯を光らせ、ニヤーッと笑う。
「チミ。若者が深夜にゲーセンとは、悪い子ざんすねえ」
イヤミ氏は、私が援○交際を提案でもしたかのような顔で、馴れ馴れしく肩を叩く。
そして悪い顔で、ヒソヒソと、
「なら教えてもいいざんすよ。悪い子御用達! 不良の聖地を!」
「今どき不良って……まあいいや、お願いします」
そして私たちは夜の裏道に消えたのであった。
…………
…………
「何すか、これ」
私は呆然とする。
「もちろん、不良の聖地! インベーダー喫茶店ざんすよ!」
「インベ……」
イヤミ氏は得意げである。
見る限り、ここは喫茶店。『カフェ』ではなく『喫茶店』。
LPレコードがジャズを奏で、店ののぼりには『スペースインベーダー始めました』。
「つかこの町、本当に二十一世紀なんですか?」
前から思っていたが、一松さんたちも本当に平成生まれなんだろうか。
たまに隠しきれない昭和臭を感じるのだが。
で、私の前にはテーブル。そして耳に響くのは。
「インベーダーゲームって! この時代にインベーダーゲームって!!」
ついにツッコミを入れてしまった。イヤミ氏がシーッと、
「さっきから声が大きいざんすよ。ほら、他のプレーヤーが睨んでるざんす」