第5章 派生①一松監禁END
「そうかもね。俺も、今の生活が変わるのは嫌だなあ」
と、あくびをする。そしていとも簡単に。
「分かった。じゃ、何もかもダメになったら二人で死のう」
「ええ。約束ですよ」
二人で指切りし、行為と内容のあまりの落差に笑う。
そして私は、自分の胸のつかえが完全に取れてることに気づいた。
「安心した?」
一松さんは私の頭を撫でる。う……見抜かれてたか。
「そう見くびらないでよ。今のバイトは割と上手く行ってるし、正社員登用もあるから」
頭をなでなでし、抱きしめる。どうだかなあ。
でも一松さんはそんな私の不安すら笑い飛ばす。
「松奈がこの部屋で待っていてくれたら、俺はどんなことでも頑張れる」
その顔に、以前とは違う頼もしさを感じる。
信じて、いいんだろうか。
思わず嬉しくなって、
「愛してます、一松さん」
と抱きしめる。
「俺も、愛してる。松奈」
ぎゅうっと抱きしめられ、そして手が身体を……。
「ええー。お仕事があるんでしょう? そろそろ寝た方が」
ちょっと身じろぎするけど、いやらしい手が追いかけてくる。
「誘っておいて何言ってんの」
「誘ってません、誘ってません……や……あ……」
そして私たちはまた暗闇の中に溺れる。
幸せな気持ちのまま、ずっと。
次に目が覚めたとき、きっと私の身体はきれいに拭かれ、手錠をされ、扉には鍵がかけられてるんだろう。
私は何も与えられず、ベッドの上で一松さんが帰るまでの長い長い時間を過ごす。
そして一松さんが戻ってきて何もかも面倒を見てくれて。
そんな時間がずっと続く。
間違ってる、歪んでると言う人も多いだろう。
私たちは、心が病気になってるだけだと言う人も。
でも、私も一松さんも、今が間違いなく幸福だ。
死を持ってこの幸福を終えられるという安心だけで、私は長い退屈を耐えられる。
「愛してます……」
一松さんを抱きしめ、口づけを交わす。
「松奈、愛してる……」
私の目から涙がこぼれた。
どこにあるかも分からない小さな鳥かごの中で、私はこの世界の誰よりも幸せだった。
――END