第5章 派生①一松監禁END
「ちゃんと普段から運動しないと。筋肉がつかないし、お腹もすかない。あと太る」
「うううー」
た、確かに最近、私たちの体型は逆転しつつある。
出会ったばかりの頃、半引きこもりだった一松さんは、ちょいとお肉のついてる体型だった。
今は完全引きこもりの私の方が、その体型に近づきつつある。
でも部屋から出ない生活だと、どうしても運動不足になる。
それを心配した一松さんは、蓄えを一部崩し、思い切って室内用ランニングマシーンを買ったのだった! そして私は毎日走らされている……。
「はあ、はあ……」
ようやくノルマを達成した。
へとへとになってランニングマシーンから降りると、
「お疲れ。じゃ、一緒にシャワーに入ろうか、奥さん」
と、一松さんが笑って私の手をつなぐ。
「はーい。あなた」
私もふざけて笑う。私たちの左手の薬指には、指輪が光っていた。
あれからずいぶんと時が経った。
……と思う。
相変わらず外部の情報から遮断されているので、どのくらい経ったか不明なのだ。
世間で大きな事件が起ころうと、今のところ私たちの小さな家を壊すほどではなく、私は閉じ込められた部屋からは一歩も出ていない。
一松さんは未だにバイト生活だ。バイトは何度か変わってるみたいだけど、とりあえず続いている。
収入を安定させたいと、正社員の口も探しているけど、元々口べたな性格もあって、なかなか上手くいかないようだ。
そして私たちは結婚した。
監禁から一年ほど経った(らしい)ある日、一松さんは結婚指輪と婚姻届を持って、ガクブルしながら私に結婚を申し込んだのだ。
何つうサプライズだ。受けたけどね!
ただし私は異界から来た存在なので、戸籍も本籍も何もない。
受理されようのない婚姻届けは、妻と夫の欄に互いの名前が書かれただけの状態で、大事にしまわれている。
私たちの結婚を知ってるのは私たちだけ。
それでも小さなケーキでお祝いし、初夜ではない初夜に肌を重ね、幸せだった。
それからも何も変わらない。ずっと二人きりだ。
一松さんはあの日家を出てから、松野家には一度も戻ってないそうだ。
生存を伝えるため、時々わずかな仕送りを松野家に送ってるらしい。
私と一松さんの名前で。