第4章 後日談
「え? ホント!?」
一松さんの顔がみるみる赤くなる。
「あ、ありがとう。松奈のために、頑張るから」
そう言われるとこっちまで嬉しくなる。
でも、明日から大変だと私は立ち上がり、すたすたと部屋を横切った。
そしてふすまをピシャッと開けた。
「そういうわけで、労働って尊いと思いません? お兄さんたち」
『まずお弁当を作ってくれる彼女がいないとさ~』
部屋の前でノゾキをしていたクソ五人は、異口同音にそう言った。
…………
何だかんだで三ヶ月ほど経った。
「今日は、猫のキャラ弁に挑戦してみたんですよ」
「うん。開けるとき楽しみにしてる」
笑顔でお弁当を受け取り、いつものキス。
そのまま出て行くかと思いきや、何か言いたそうにしている。
「どうしたんです?」
「えと……そろそろ、だから」
「何が?」
「秘密。楽しみにしてて」
嬉しそうな恥ずかしそうな様子。私も聞かないことにした。
「分かりました。じゃ、いってらっしゃい」
もう一度キスをし、手を振って見送る。
朝、つなぎ姿の一松さんを見送るのが日課になった。
一松さんはバイトを止めること無く、作業にも慣れてきたようだ。
今では、傍目に分かるくらい筋肉がついてきた。
そして。
「愛の力だー! 我が息子が働き始めるとは!」
「ありがとう松奈! 松奈のおかげだわ!」
「いえバイト自体は一松さんが自発的に始めたことであり……」
バイトだけでご両親に泣いてすがって喜ばれるとか、どれだけ親不孝を重ねてきたんだ。
「一松が真面目になっちゃってつまんねーの!」
「妬んでも仕方ないだろ、おそ松兄さん。僕らもまず彼女を探さないと」
「順番が全然違うからね、チョロ松兄さん!」
ニート六つ子のどうでもいい漫才を聞きながら、洗濯物を干しにいく。
さっきの意味深な言い方、何なんだろう。
そろそろ引っ越し費用が貯まるってことだろうか。
途端に、きゅううっと、胸が痛くなる。
いや、一松さんはいい歳なんだし、自立して家を出るのは何もおかしくない。
でもおそ松さんたちが、内心は寂しがってる気持ちも理解出来る。
私自身も……本当は松野家を離れたくないのかも。
でも……でも……。
定まらない心のまま深いため息をつき、家事をするため歩き出した。