第4章 後日談
そしてしばらくして。
「ここですか? うーん、意外というか何というか……」
私は近くの茂みに隠れ、ハッハッ、と尻尾をふる十四松犬さんの頭を撫でる。
私たちの目の前では――。
「おい松野、作業が遅ぇぞ!!」
「すみません!」
答える一松さん。彼はいつものパーカー+サンダル姿では無い。
作業着を身につけ、ヘルメットをし、重そうな工具を運んでいた。
だがニートの悲しさ。体力がとても追いつかず、足がふらついている。
「どうもご苦労さまです」
千円札を口にくわえさせると、十四松さんは人間の姿に戻った。
一方一松さんは、工具箱を落としてまたドヤされている。
十四松さんも心配そうに、
「一松兄さん、どうしたんだろ。僕が手伝いに行った方がいいかな?」
「止めた方がいいと思いますよ」
一松さんのプライドが傷ついてしまう。
そう言うと十四松さんも『だよね』とうなずき、それじゃあ、と手を振ってパチンコ店の方に行ってしまった。
私はしばらく、慣れない作業に精を出す一松さんを見ていた。
でもどうして急にバイトを始めたんだろう。
もしかして引っ越し費用を貯めようとしてくれてるんだろうか。
賃貸情報誌は見られているし、隠す気もないし、多分それだろう。
嬉しさと同時に、かすかな寂しさを覚える。
もちろん新しい家で一松さんと二人きりになれるのは嬉しい。
でもそれは、とても寂しいことでもある気がした。
そして、何だかんだでご兄弟と仲が良い一松さんにも、辛いことじゃないかと。
…………
帰ってきた一松さんに部屋に来てもらった。
「痛い、痛い……ああ、そこ、そこ……」
「『痛い』と言ってるときほど嬉しそうで、ちょっと怖いんですが」
一松さんを寝かせ、腰をマッサージしながら言う。
「コミュ障のあなたが工事現場でバイトとか、ハードルが高すぎでしょう。
もっと簡単なのから始めたらいいのに」
「知ってたの?」
一松さんは、気まずそう。
「通りがかっただけですよ。あんなに無理しちゃ、お金より先に身体を壊しますよ?」
「大丈夫。俺も男だから」
強がるのが可愛いなーと思ったり。
「ふふ。ちょっと脂肪が落ちました?」
「そこ、筋肉がついたって言うとこでしょ」
そこでいいことを思いつく。
「私、明日から一松さんのお弁当を作ります!」