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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第4章 後日談



 そしてしばらくして。

「ここですか? うーん、意外というか何というか……」
 私は近くの茂みに隠れ、ハッハッ、と尻尾をふる十四松犬さんの頭を撫でる。
 私たちの目の前では――。

「おい松野、作業が遅ぇぞ!!」
「すみません!」

 答える一松さん。彼はいつものパーカー+サンダル姿では無い。
 作業着を身につけ、ヘルメットをし、重そうな工具を運んでいた。
 だがニートの悲しさ。体力がとても追いつかず、足がふらついている。

「どうもご苦労さまです」
 千円札を口にくわえさせると、十四松さんは人間の姿に戻った。
 一方一松さんは、工具箱を落としてまたドヤされている。
 十四松さんも心配そうに、

「一松兄さん、どうしたんだろ。僕が手伝いに行った方がいいかな?」
「止めた方がいいと思いますよ」

 一松さんのプライドが傷ついてしまう。
 そう言うと十四松さんも『だよね』とうなずき、それじゃあ、と手を振ってパチンコ店の方に行ってしまった。

 私はしばらく、慣れない作業に精を出す一松さんを見ていた。
 
 でもどうして急にバイトを始めたんだろう。
 
 もしかして引っ越し費用を貯めようとしてくれてるんだろうか。
 賃貸情報誌は見られているし、隠す気もないし、多分それだろう。
 嬉しさと同時に、かすかな寂しさを覚える。
 
 もちろん新しい家で一松さんと二人きりになれるのは嬉しい。
 でもそれは、とても寂しいことでもある気がした。

 そして、何だかんだでご兄弟と仲が良い一松さんにも、辛いことじゃないかと。

 …………

 帰ってきた一松さんに部屋に来てもらった。
「痛い、痛い……ああ、そこ、そこ……」
「『痛い』と言ってるときほど嬉しそうで、ちょっと怖いんですが」
 一松さんを寝かせ、腰をマッサージしながら言う。
「コミュ障のあなたが工事現場でバイトとか、ハードルが高すぎでしょう。
 もっと簡単なのから始めたらいいのに」
「知ってたの?」
 一松さんは、気まずそう。
「通りがかっただけですよ。あんなに無理しちゃ、お金より先に身体を壊しますよ?」
「大丈夫。俺も男だから」
 強がるのが可愛いなーと思ったり。
「ふふ。ちょっと脂肪が落ちました?」
「そこ、筋肉がついたって言うとこでしょ」
 そこでいいことを思いつく。

「私、明日から一松さんのお弁当を作ります!」

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