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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月


 一松さんは私の手に何かを握らせる。

 そしてポケットに手を突っ込み、気だるそうに仕切りの向こうに歩いて行った。

「別に楽しくねえよ」

 不機嫌そのものの声に、おそ松さんが、
「わっ!! 一松!! いたならとっとと出てこいよ!! 松奈ちゃんは?」
「知るか。俺はあいつの保護者じゃないし」

 私は一松さんの考えを察しかね、困惑していた。
 けど一人キョドる私をよそに、六つ子の話し合いは続いていく。


「で、一松はどう思うのさ。あの子のこと。警察に届けた方がいいと思う?」
「別に。今のままでいいだろ」
 それを聞き、私は目を丸くする。
「え? でも一松兄さんが、一番あの子のことを警戒してたじゃない!」

「金を盗む機会なら何度もあったのに、一切手をつけてない。
 今日、一人で行動してたときも、ちゃんとバイトの面接を受けてた」

 待て。なぜ私がバイトの面接にちゃんと行ってたことを知っている。
 そういえば最後の面接が終わった後、店の前にいたし。
 まさか私が一人になったら本性を見せると思って、後をつけてた……?

「長くいるつもりもないみたいだし。いるのは『少しの間』と言ってた」

 あー、そういえばポロッと言っちゃったときあったなあ。
 やっぱ聞き逃してなかったかー。

「お金目当てじゃなく、短期間、他人の家に転がりこむ事情? 
 ますます分からなくなってきたな。いっそあの子に直接聞いてみる?」
 チョロ松さんが頭をかきむしる音。
 うーん、私も事情をお話ししたいとこだ。

 しかし唯一事情を知っている博士(&謎のメイド)はすでに出発してて、研究所は閉鎖されていた。
 私一人が本当のことを話したとこで、泥棒よりヤバい電波さん。即、病院送りだ。

「無理に聞く必要はないだろ。別に今の時点では誰も被害を被ってないし。
 父さんは娘が出来たって喜んでるし、母さんも家事を手伝ってくれて本当に助かるって言ってる。
 俺たちも何かされたわけじゃない。出て行くまで好きにさせればいいさ」
 おそ松さんのニヤニヤ声が、

「何だ何だ。やけにしゃべるなあ、一松~。
 昨日の夜も、あの子を『悪い奴じゃないと思う』ってやけに庇ってたしなあ。な、トド松」 

 え。

「でも母さんも、『深い事情があるみたいだし放っておいてあげなさい』って言ってたよね」

 
 ……え?

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