第1章 最初の一ヶ月
「そもそも家出か何かだと思う? チョロ松」
「多分。てかそれしかないでしょ。警察に連絡した方がいいんじゃないの?
もしかすると捜索願いとか出てるかも」
誓ってもいいが、そんなものは出ていない。
「必要ないさ。俺には分かっている。あの子は俺たちの家族だ」
カラ松さんが流れを切る。トド松さんが呆れたように、
「いやだからさ。カラ松兄さん。下心を出してる場合じゃないよ。
あの子が家族じゃ無いって証拠は山ほど――」
グラスがドン!と置かれる音。
「過去は関係ない! あの子は身一つで俺たちを頼ってきたんだ!!
なら守ってやるのが男ってもんだろうっ!!」
沈黙。
えと、カラ松さん。
もしかして最初から私が怪しいと承知の上で……?
「だまされてやろうぜ、男なら」
サングラスをクイッとあげ、ウィスキーを飲む仕草が見えるようだ。
「いや、俺たちだけなら別にそれでもいいけどさ、父さんと母さんはどうなんだよ」
チョロ松さんがすぐ冷静なツッコミを入れる。頭の良いトド松さんも、
「最初はトト子ちゃんの家に行こうとしてたんだし、お金目当てってことなんでしょ?
あの子がうちのなけなしのお金を盗っていったら、僕たちの生活がヤバくなるんだよ?」
……親じゃ無く、自分たちの心配かよ。チョロ松さんがさらに続けて、
「仮に納得出来る事情があったとしても、情で無責任に泊めてるより、警察か役所が介入した方があの子の将来のためだと思うな」
まあ普通の虐待や家出物件ならそれが正しいんだけど。
まさか別の世界から来た~とかいう状況は、彼らにも想定外だろう。
私もそうした方がいいんだろうか。
他人の家でびくびくしながら過ごすより、保護施設か何かで孤独に過ごす方がいいだろうか。
その方が迷惑もかからない。
そうしよう。皆さんに謝って、ちゃんと出て行こう。
そう決めて立ち上がろうとした。
「十四松はどう思う?」
「僕はあの子にいてほしい!」
立ち上がろうとして止められた。
誰かが私の手を押さえていた。
「おまえは相変わらず気楽だな。いちおう聞いておくけど、何で?」
一松さんが、私の手を押さえ、強く握りしめる。
「だって! あの子が来てから、一松兄さんがすっごく楽しそうだからっ!!」