第4章 後日談
…………
私たちは映画館に向け、川を散歩していた。
が、デートの甘やかな雰囲気はほど遠かった。
「怖ぇぇぇぇ!! 何なんですか、あの子作りプレッシャーはっ!!」
さすがの一松さんも顔を青くしながら、
「ごめん。息子が全員失敗作だった分、孫に賭けてるとこ、あるかも」
自分で言ってて悲しくないか、一松さん。
まともなお母様だと思ってたのになあ。
一松さんと手をつなぎながら、穏やかな風の吹く草むらを歩く。
「ああまで口出しされると、ドン引きってレベルじゃないですね」
もう何とかハラスメントの域だろう。
そりゃ私も、一松さんとの未来を考えないでもない。
でも、もう少し恋人同士のイチャイチャを楽しみたいってか、遊びたいのも本音だ。
手をギュッと握られると、顔が赤くなる。
「俺も就職してないし」
してないというか、する気がないのでは?
冷たい目でじとーっとにらむと、一松さんが咳払い。
「考えてはいるよ。そのうち」
「ふむ、そのうち、ですか」
「ほ、本当だからね!?」
焦ったように私に言い訳し、ふとお空を見上げる一松さん。
「うちの場合、あのクズ兄弟がいるから」
「足を引っ張り合う仲ですもんね」
「いや一人だけ就職に成功すると――残り五人がぶら下がってくる可能性がある」
私はしばしその意味を吟味し。
「マジでろくでもないですね、あんたら六つ子っ!!」
「何かのきっかけで全員がしっかりすれば違うと思うけど。
まあ皆、いつかはしっかりすると思うよ。いつかは」
その『いつか』にお母様も長年期待していたんだろうな。ホロリと涙が出る。
仲を応援してくれるのは嬉しいけど、結婚する前からこのプレッシャー。
もう少しこう、一松さんとマイペースに愛をはぐくみたいものである。
「ちょっと家がうるさすぎて困りますよね」
「そうだね。ごめん」
「いえ一松さんのせいでは」
そしてふと、道ばたの不動産屋さんの賃貸情報前で足が止まる。
うーむ。バイトして、二人でアパートに住むのもありだろうか。
あのにぎやかな家を出るのは、ちょっと寂しい気がするけど。
だが一松さんと遠慮無くイチャつける、ホテル代が不要になるメリットは計り知れない。
「松奈?」
「はいはい。もうすぐ上映時間ですよね!」
一松さんに呼ばれ、慌てて歩き出した。