第4章 後日談
「今日の映画、ものすごく話題なんですよ。主人公の成長物語とアクションの格好良さ!
心に深い傷を負ったヒロインも恋をすることで、だんだん立ち直って最後には――」
「へえ、そうなんだ」
「楽しみですね!」
「楽しみなんだ」
「ええ!」
そのときの私は、これから見る――最後に登場人物が全員死亡するスプラッタ映画のことで頭がいっぱいで、一松さんがどんな表情をしていたのか、よく見ていなかった。
…………
…………
一松さんが最近悩んでいるらしい。
「あれ? 一松さんは?」
六つ子の部屋を開けると、一松さんだけがいなかった。
「松奈の部屋にいるんじゃなかったの? じゃあパチンコかな」
と十四松さん。
「彼女を置いてパチンコ? 相変わらずダメな弟だなあ」
漫画を読みながらダメなおそ松さん。
「やはり映画が不味かったんですかね? ラストシーンでは吐きそうになってたし。
てかエンドロールの最中にトイレに駆け込んでたし」
「……何の映画を観てきたの?」
「もう少ししっかりしないと。せっかく俺たちの中で最初に結婚出来そうなのに」
求人誌をめくりつつ言うチョロ松さんに、若干引く。
「いや、その、そういう話は、ちょっと早いんじゃ……」
「何? 松奈はブラザーを捨てるのか!?」
カラ松さんが驚いたように言い、五人の目が一斉に私に向けられる。
「そ、そんなことあるワケないじゃないですかっ!!」
「だよね! 昼も夜もあんなにイチャついててさあ」
トド松さんが爽やかに――嫌味っぽく言う。
いやいや、家の中では極力控えてるでしょうが。
お母様からは、逆のプレッシャーを受けているが。
「ねえ松奈」
おそ松さんが笑顔で言う。
「頑張って、一松を就職させてよ」
「え? ああ、はい」
何だろう。何か裏を感じるんだけど。
「俺たち、こう見えて子供が大好きなんだ」
その瞬間、私と一松さんが必死で働き、ご両親と五人の兄を養う未来が見えた気がした……!!
「ヤバいヤバいヤバいヤバいっ!!」
私は部屋の中で絶叫する。
この悪魔の家にいては、クソな未来しか見えやしねえ!!
一松さんと健全にラブラブな交際を進めるため、この家を出ねば!!
私の部屋のちゃぶ台には賃貸情報誌の山。
私は高速でめくり、よさげな物件を探した。