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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第3章 三ヶ月目のさよなら



「じゃあ、さっさと帰った方がいいザンスよ。
 あの六つ子たちのここ三ヶ月は……見てられないザンスからね」
 グラスの破片をホウキで集めながら、イヤミさんは言う。
 私もニッコリ笑って席を立つ。

「はい、ではまた!」
「また来るザンス!」

 笑いあって手を振って店を出た。
 あ、運転免許証を返そうと思ったのに忘れちゃった。
 まあいいか、記念にずっと取っておこう。

 商店街ではトト子さんに会う。

「あら松奈ちゃん、お久しぶり。今度のコンサートこそ、来てくれなきゃイヤよ?」

 私の不在に気づいてすらいねえ!

「え……松奈……え!? まさか昼間から、化けて出てっ!?
 てやんでえ! オイラに取り憑いても良いことはねえぞ、チクショー!!」

 逃げるなチビ太さん。私の不在をどうとらえていたんだ。
 
 そして私は公園を抜け、松野家への道を急ぐ。
 もう異世界のお客様でも、期間限定の妹でも何でも無い。
 
 ゆっくり歩いていたのはすぐ急ぎ足に、やがて駆け足になる。

 あの道を曲がってまっすぐ走って、そうすれば松野家が見える。

 六人のお兄さん達は、部屋にいてくれるだろうか。
 
 走りながら涙があふれた。

 世界はキラキラしてる。嫌なことも怖いこともあるけど、素敵な場所だ。 
 不安がって、怖がっていても、何もならない。

 自分の足で歩いて、一生懸命に頑張れば、どんな世界でもきっと道は開ける。
 
 今、私は私のつかみたい幸せの中に飛び込むんだ。

「一松さん!! お兄さんたちっ!!」

 松野家の手前で、大きな声を出してしまった。

 聞こえただろうか。

 友達が入ってこれるように、六つ子の部屋の窓は開いている。

 私は足がもつれて転びそうになりながら、玄関に手をかける。

 同時に、上でふすまが勢いよく開いた音がした気がした。

 涙で目の前がまともに見えないまま、私は家に飛び込んでいった。

 そして皆が階段を駆け下りてくる音を聞きながら、泣きながら大声で言った。
 

「ただいま!!」




 六人の兄さんと過ごした三ヶ月・完

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