第3章 三ヶ月目のさよなら
「あ……ハイ。どうもご迷惑をおかけしました」
一松さんに抱きしめられたまま、私は顔を真っ赤にしてうなずいた。
「やれやれ。またパーティーのやり直しだよ」
「母さん、こうなるって予想してるんじゃない? 台所にまだ食材がいっぱいあったし」
「松奈ー!! もう帰らないんだね! ずっと僕らの家にいるんだよね!」
十四松さんが兄を突き飛ばし、私に抱きついてきた。く、苦しい……!
「いやあ、感動的だったよ。闇松兄さんの愛の叫び! もう忘れられないね!」
「う、うるさい、トド松っ!!」
「『家に帰ろう、愛する松奈』~」
「愛する、までは言ってねえよ!」
ワイワイガヤガヤと、笑いとからかい。
「エスパーニャンコも大手柄だな。猫缶をいっぱいあげないと」
誰かがそう言ったので、私は猫ちゃんを探した。
「猫ちゃん、どこですか?」
「あっ!!」
一松さんの緊迫した声。全員が顔を上げる。
まだ止まってない転送装置の中に、エスパーニャンコがいる!
「こら、す、すぐ出るだス! まだ装置は動いてるだス! 転送されちゃうだスよ!!」
デカパン博士は大慌てだが、それで間違ったボタンを押してしまったらしい。
「早く出るだスー!!」
装置が輝き、エスパーニャンコが光に包まれ出す。
けど猫ちゃんは逆に硬直してしまっている。
「おい、こっちに来い!!」
一松さんが怒鳴るけど、友達に怒鳴られ、エスパーニャンコは動かない。
「猫ちゃん!!」
一松さんの親友だ。助けないと!!
私は走り、転送装置の中に入って、エスパーニャンコを装置の外に放り投げた。
でもホッとしたのも一瞬。
「松奈ーっ!!」
「……さよなら」
お別れだけはどうにか言えた。
『あなたを愛してる。いつまでも、ずっと』
そして光に包まれ、何もかも分からなくなった。
…………
…………
…………
というワケで、私は無事に元の世界の元の家に帰ったのでした。
☆めでたし、めでたし☆
六人の兄さんと過ごした三ヶ月・完
……。
いやいやいやいや!!
…………
…………
…………
夜である。まだ少し肌寒いが、うっすいかけ布団一枚しかない。
「はあ。困った……」
自分の部屋の、小さくて小汚いベッドに横たわり、天井を眺める。