第3章 三ヶ月目のさよなら
私はぎゅうっと抱きしめ返した。夢の中で、助けを求めてしがみついたときより、ずっと、ずっと強く。
「松奈が前にいた場所でどんな生活をしてたか、なんて聞かないし、知りたくない。
でもここで幸せになることを、怖いなんて思わないで。皆が、僕がついているから」
「だって……だって……」
涙が止まらない。
私は家に帰って不幸にならなければいけない。そう、思っていた。
義務感でも罪悪感でも何でもない。
その方が、安心出来るからだ。
だって不幸っていうのは、すごく楽じゃないだろうか。
誰だって最初は嫌だ。自分を憎み、他人を妬み、世間を呪う。
でも次第に感覚がマヒしてくる。慣れてしまう。
一番下にいるから失うものがない、これ以上悪くなることを怖がらなくていい。
いつしかその状況が当たり前になる。
すぐ上にごく普通の幸せな世界がある、手を伸ばせば届くかもしれないのに。
やがて上を見ることも忘れてしまう。
だから一松さんに監禁されたことを、私はあまり引きずらなかった。
あれは私になじんでいて、とても安心出来る不幸だったから。
「一松さん……私、本当の私、全然、明るい子じゃ、ない……もっと暗くて、後ろ向きで……」
「うん、うん。もういいよ。何も話さなくていいから。俺がいるから、大丈夫だから」
抱きしめられ、背中を叩かれる。
「俺のそばにいて。俺も、松奈がいないと、もう、どうしていいか分からない」
「本当の私、全然、ダメダメな子なんですよ? それでも、いいんですか?」
一松さんは私の手を取り、キスをした。
「大好き……! 一松さん、あなたのことが大好きです!!」
「知ってる」
もう一度、私たちは微笑みあい、キスをした。
「家に帰ろう、松奈」
「はい!」
あの家に帰れる。また『ただいま!』って言えるんだ。
またポロポロ泣く私を、一松さんはよしよし、と背を撫でてくれた。
「……えーと、結論が出たところで、そろそろ終わってもいいかなあ?」
『っ!!』
そこでやっと周囲の状況を思い出す。
目の前で喜劇を見せられた皆さんが、何とも言いがたい表情で、天井や壁に視線をさまよわせていた。
デカパン博士だけがニコニコと、
「良かっただスなあ。じゃあ、装置を止める準備をするだスよ」