第3章 三ヶ月目のさよなら
その先を言わないで。聞きたくない。
「……怖いって、何が。怖くなんかないだろ。こんなニートの集団」
チョロ松さんが言うが、一松さんは自虐的に笑う。
「やっぱり、そうなんだ。俺が怖いの? だよね。色々怖がらせたしね。
だから松奈も毎晩、自分を守ろうと身体を丸くして……」
何の話だ。さっぱり分からんし。
私は叫ぶ。
「博士。装置を動かして下さい。帰りますから!」
心のヒビが、さっきより大きくなってる。急がないと、急がないと。
『助けて』
「え?」
エスパーニャンコを振り返る。
『一松さん、助けて』
ダメ。涙が、涙が、あふれそうになるから。
『最初は、撫でてもらえるだけで安心出来たのに……』
二、三歩よろめいた。
毎晩のように悪夢を見ていた。
地面の底から暗いものが這い上がってきて、私を捕まえて包み込んで、どこかに連れて行ってしまう。そんな夢。
「やっぱり、あれは自分を守ろうと身を丸くしてるんじゃなかったんだな。
誰かに……一松に助けてほしくて、しがみついていたんだろう?」
カラ松さんがそう言う。猫さんがカラ松さんの方を向き口を開く。
『松奈は、もしかして――心の中ではずっと助けを求めているんじゃないか?』
私はあと一言でもしゃべれば、堤防が決壊しそうで、首をふるばかり。
本当は帰りたくない、帰りたくない。帰りたくない。一松さん助けて。
溺れる者はワラをもつかむ。手の届く人にしがみつき、助けを求めて……。
違う。何も知らない。私、私は明るくて元気な松奈。何も、何も知らない。
「何で俺じゃ安心出来ないんだよ!? 君をさらって閉じ込めて、あそこまでして、それでも君に取っては何の証明にもならないのかよ!!」
『本当は帰りたくない。でも家に帰らないと』
腕の中のエスパーニャンコが静かに言う。
『だって未知の幸せより、身体になじんだ不幸の方が、安心出来るから』
「……っ!!」
糸が切れたように、私は座り込む。
「何で……何で……」
涙がポロポロとこぼれ、床にみずたまりを作っていく。
見たくなかった。自分のこんな心の底の本音なんて、知りたくなかった。
「ごめんね、松奈。こんなことをして」
一松さんが私を抱きしめる。