第1章 最初の一ヶ月
やはりこっち方面の話題は不味いらしく、一松さんが不機嫌オーラを出してくる。
どんな話題を振ったものかと焦っていると、ガラッと扉が開く音がする。
ドヤドヤと客が入ってきた。
「今日は空いてるなー」
「おっちゃーん。とりあえず人数分、生ねー!」
その声に一松さんがぴくっと反応する。
私も分かった。おそ松さんたちだ。
私たちは仕切りのこっち側にいるから、向こうからは見えない。
椅子を引いて席に座る音。ジョッキが人数分置かれる音。
「あーあ、働くと疲れるよー」
今日はパチンコじゃないんだろうか。
「まずかんぱーい!」
『かんぱーい!』
一松さんはどうしようかと、迷う目だった。なぜか動揺している風にも見える。
私はほとんど食べ終わったし、一松さんはあちらに合流する方がいいのでは?
迷ってる風な一松さんに声をかけようとすると、おそ松さんの声がした。
「デカパン博士の研究所から前のことは分からないか」
私の動きが止まる。呼吸まで止まりそうになる。
お、落ち着け。私のことだとは限らな――。
「検索をかけたけど、履歴書に書いてあった学校も全部デタラメだったよ」
トド松さんの声。もう間違いない。私のことだ。
身体が震え、全身から血の気が引いていく。
続いてチョロ松さんが、
「イヤミが会ったみたい。どうも最初はトト子ちゃんの家に行くつもりだったみたいだよ。お金があるからって」
一松さんが、私をじっと見ていた。
時間よ止まれと切に願うのに、おそ松さんの声が無情に続く。
「あの子、やっぱりうちとは何の関係もない子だよな」
ついにバレてしまった、というのが最初の思いだった。
けど来るべきものが来たという安堵感もどこかにあった。
だって赤の他人の自分が、自称妹として数日過ごせただけでも奇跡だったのだ。
でもこの後はどうすべき?
私のそばには一松さんがいるし、逃げることも出来ない。
その彼はというと珍しく目を見開き、真っ青な私と、仕切りの向こうを何度も見、次の対応を決めかねているようだった。
「で、どうするのおそ松兄さん」
と末っ子トド松さんの声。おそ松さんがビールを仰ぐ音。