第3章 三ヶ月目のさよなら
寝返りを打つと、起きている一松さんと目が合う。
カーテン越しにもれる月明かりがきれいだ。
言葉は交わさない。
そのまま互いに顔を近づけ、キスをした。
腕を頭の下に回され、抱きしめられ、とても暖かかった。
眠れない私を寝かしつけようとしてるみたいに、何度も背中を撫でられる。
ギリギリまで私を帰さないよう奔走していたみたいだけど、一松さんの努力は、結局無駄に終わった。
これでいいんだ。これで。私は家に帰る。
一松さんの腕に頭を乗せる。耳を身体に寄せると心臓の鼓動が聞こえた。
明日からは一人で寝る。
こんな素敵な人が、これからの人生に現れるかどうか。
涙がこぼれた。指で、その涙をすくわれる。
背中をポンポンと叩かれた。
眠りたくない。でも眠くなる。
一松さんが見守ってくれているのを感じながら、私はゆっくり目を閉じた。
…………
「一松兄さん、生きてる?」
「やっぱり最後が一番ひどかったなあ」
「うん……今度という今度は……死ぬかと……」
私が起きたとき、一松さんは肋骨のあたりを押さえ、顔面蒼白であった。
そして私は背骨がギシギシ言ってた。あー、痛い痛い。
最後の朝ご飯は、朝ご飯というには豪勢なメニューだった。
皆、無言で食べた。
その後で私は部屋に上がり、片付けの終わった部屋を徹底的にきれいにした。
お兄さん達は何度も部屋をのぞきに来て、
「忘れ物はない?」「荷物、ちゃんと持った?」「今まで楽しかったよ」と、本物の家族を送るように、皆、気をつかってくれた。
「じゃあ、行くか」
と、おそ松さんが迎えに来た。
お父様とお母様とは玄関先でお別れだ。
お二人とも、仕事を休んでお見送りして下さるつもりだったらしいけど、職場の都合でどうしても出勤しなければいけないみたい。
「元気でな、娘よ」
「ありがとうね、松奈」
何度も抱きあい、涙を流した。
「松奈。博士の言ってた時間に間に合わなくなる」
チョロ松さんに促され、やっと別れを終えた。
角を曲がるまで、何度も手を振った。そしてお父様とお母様は見えなくなった。