第3章 三ヶ月目のさよなら
「あ。はい。本当は全部持って行きたいところなんですけど、重量制限があるみたいで」
カバン一つが限界らしい。ほとんどの物は置いていくしかない。
「残りは、申し訳ありませんが、処分をお願いします」
「そうねえ。落ち着いたら、そうするわ」
お母様は残念そうに、
「せめて餞別(せんべつ)くらいあげたかったんだけど」
「いいですよ。それにお札の種類が違うみたいだし」
こんなトコだけ異世界でなくともいいのに。
「じゃあ、部屋でのんびりしていてね」
お母様は寂しそうに、お別れパーティーの準備に行ってしまわれた。
さて、後はどうしよう。主賓(しゅひん)なので下のお手伝いには行けない。
知り合いの方にお別れに行くには、時間が遅すぎる。
最後にお会いすることは出来たし、このまま何も告げずに去っていいだろう。
「一松さん……あれ?」
六つ子の部屋に行くと、おそ松さんが一人、寝そべって漫画を読んでいた。
「皆は?」
「カラ松とトド松とチョロ松はパーティーの手伝い。一松と十四松はデカパン博士のとこ」
こちらに背を向けたままだった。
「そう……ですか」
本棚から適当な漫画本を取り出し、ため息。
一松さんは最後に何かしようとしている。
だから若干の不安を感じた。
私の帰還を阻止する最終手段は、次元転送装置そのものの破壊しかない。
でも、そこまではしない気がするんだけど。
「なあ、そろそろ大丈夫だと思わない?」
ふと、おそ松さんがそう言った。
漫画から顔を上げ、私を見ていた。
……いや違う。本当に私を見ているんだろうか。
何かもっと奥深いものを見られている気がした。
「ここにいて大丈夫だから。お兄ちゃんたちが、守ってあげるよ?」
「ありがとうございます、おそ松お兄さん。もう十分、守られてますよ。でも家に帰らないと」
おそ松さんの目に、一瞬だけ、失望が見えた気がした。
「そっか……じゃあ、俺、パチンコに行くから。パーティーのときまでに戻るわ」
私の返事を待たず、おそ松さんは、ふすまを開け、軽快に階段を下りて行ってしまった。
一人残された私は、漫画を読む気にもなれず、大の字になる。