第3章 三ヶ月目のさよなら
「あー、おまえらそこにいたーっ!!」
夕暮れの道の向こうから、おそ松さんが走ってくる。
「お兄ちゃんを置いてきぼりにするなよ! 遊ぶ金があるならパチンコ代貸してくれよ!!」
「大声で言わないで下さい、おそ松お兄さん……」
相変わらず、皆、ろくでもなかった。
けどおそ松さんはすぐに笑顔を消す。珍しく数秒ためらい、口を開いた。
「それとな。さっき、チョロ松たちから連絡があった」
私たちは無言。
「ハタ坊が見つかったって。三百万、調達出来たって!」
「え。そんな大金をアッサリ貸して下さったんですか!?」
「いや『くれた』。担保も借用書も何もなし。友達だからって事情も聞かず、金庫をあけて五分で終わり。
いやあ、あれだけいじめたのに、友達ってありがたいよなあ」
それなら俺たちの遊び代、何百万か上乗せしとけば良かった~、とクズ長男。
……どういうお知り合いなんだ。この人らの人脈、マジで何なん。
私の二ヶ月に渡る悩みも、わずか一日で解決した。
もう、家に帰るのに何の障害もない。
「…………」
一松さんは、ただうつむいていた。
…………
…………
居間で、私はお父様とお母様の前に正座していた。
「そう。今度はちゃんとおうちに帰るのね。大丈夫なのね? 寂しくなるわ」
お母様はハンカチで涙をぬぐう。
「本当の娘が出来たみたいで……いつまでもいてくれて、良かったのに」
お父様は泣き崩れるお母様の肩に手をかけ、
「仕方ないよ、母さん。あちらのご両親も心配されているさ」
いや、それだけはないっす。
……? 今、何でスッとそんな考えが出たんだろう。
「それで、いつ帰るの?」
「三日後に」
「じゃあ明日と明後日はのんびりしてなさい」
「お別れパーティーもしなくちゃね。ニートたちもあなたを可愛がってたものねえ」
「はい、ありがとうございます」
と私はうなずいた。
「三ヶ月間、本当にありがとうございました。ご恩は生涯忘れません」
畳に手をついて、深々と頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうね」
「いつでも帰っておいで」
いえ多分、帰れないです。
そこで限界で、じわっと涙があふれた。
ふすまの隙間からのいくつもの視線を感じながら、私はお父様とお母様にすがって泣いていた。