第1章 最初の一ヶ月
一松さんが面倒くさそうに取り、
「……はい。ああ、母さん? ああ、うん……うん。分かった。じゃあ」
と電話を切った。私を振り向き、
「残業だってさ。夕飯は適当に食べろって」
「そうですか? じゃあ私、何か作りますね」
といっても料理は掃除以上にダメなんだけど。だが居候の身だ。やるしかない。
二人? いや六人分作った方がいいのかな。
でも昨日も帰宅が深夜だったし……うう、どうしよう。気が重い。
「いいよ、待ってる時間が面倒だし、どこかで食べよう」
一松さんは面倒そうに玄関から出て行く。
「え? でも私、お金持ってな……」
「閉めるよ」
「あっ、待って下さい!」
慌てて靴をはいた。
…………
…………
酒くさいなあ。
一松さんは壁のメニュー表を無言で指し、
「……何でも頼んでいいから」
「どうも」
そこは、いかにもな大衆居酒屋であった。どうやら六つ子行きつけの場所らしい。
あまりに暗いオーラをまとっていたせいか、私たちは仕切りの向こうの奥の席に案内された。
一松さんはビールと手羽先その他を店員にボソボソと注文し、私も身体を縮めつつ一番安いチャーハンを頼んだ。
「飲み物は?」
「未成年なんで」
「ソフトドリンクもあるけど」
「いいです、いいです。お冷やで」
客が少ないせいもあってか、注文の品はすぐに運ばれてきた。
「いただきまー……」
とレンゲを取ろうとすると、一松さんがビールを持ってこちらを見ていることに気づいた。
「面接、おつかれ」
え? 何? だが一松さんはジョッキを持った姿勢のまま動かない。
数秒経って、鈍いながら察するところに気づき、慌ててお冷やのコップを取る。
「お、お疲れ様です!」
「……おつかれ」
ジョッキとガラスコップがチンとぶつかった。
……。
…………。
静かな店内に、備え付けテレビの野球中継の音だけが響く。
一松さんは黙々とつまみを食べ続けていた。
ち、沈黙がっ!! 会話がない!!
「あ、あの。皆さんは普段、何をされてるんですか?」
沈黙に耐えきれず聞いてみる。
「何も」
「その、職探しとか、夢に向けてのお勉強とか」
「俺ら未来も何もないクズだから。何も出来ないし、誰の役に立たない底辺だから」
「な、ならなおのことお仕事を……」
「やりたくない」