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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第1章 最初の一ヶ月



 一松さんが面倒くさそうに取り、

「……はい。ああ、母さん? ああ、うん……うん。分かった。じゃあ」
 と電話を切った。私を振り向き、
「残業だってさ。夕飯は適当に食べろって」
「そうですか? じゃあ私、何か作りますね」
 といっても料理は掃除以上にダメなんだけど。だが居候の身だ。やるしかない。
 二人? いや六人分作った方がいいのかな。
 でも昨日も帰宅が深夜だったし……うう、どうしよう。気が重い。

「いいよ、待ってる時間が面倒だし、どこかで食べよう」

 一松さんは面倒そうに玄関から出て行く。
「え? でも私、お金持ってな……」
「閉めるよ」
「あっ、待って下さい!」
 慌てて靴をはいた。

 …………

 …………

 酒くさいなあ。
 一松さんは壁のメニュー表を無言で指し、
「……何でも頼んでいいから」
「どうも」
 そこは、いかにもな大衆居酒屋であった。どうやら六つ子行きつけの場所らしい。
 あまりに暗いオーラをまとっていたせいか、私たちは仕切りの向こうの奥の席に案内された。
 一松さんはビールと手羽先その他を店員にボソボソと注文し、私も身体を縮めつつ一番安いチャーハンを頼んだ。

「飲み物は?」
「未成年なんで」
「ソフトドリンクもあるけど」
「いいです、いいです。お冷やで」
 客が少ないせいもあってか、注文の品はすぐに運ばれてきた。
「いただきまー……」
 とレンゲを取ろうとすると、一松さんがビールを持ってこちらを見ていることに気づいた。

「面接、おつかれ」

 え? 何? だが一松さんはジョッキを持った姿勢のまま動かない。
 数秒経って、鈍いながら察するところに気づき、慌ててお冷やのコップを取る。

「お、お疲れ様です!」
「……おつかれ」

 ジョッキとガラスコップがチンとぶつかった。

 ……。

 …………。

 静かな店内に、備え付けテレビの野球中継の音だけが響く。
 一松さんは黙々とつまみを食べ続けていた。
 ち、沈黙がっ!! 会話がない!!
「あ、あの。皆さんは普段、何をされてるんですか?」
 沈黙に耐えきれず聞いてみる。
「何も」
「その、職探しとか、夢に向けてのお勉強とか」
「俺ら未来も何もないクズだから。何も出来ないし、誰の役に立たない底辺だから」

「な、ならなおのことお仕事を……」
「やりたくない」

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