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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第3章 三ヶ月目のさよなら



「おーい!」

 そこで呼ばれて、振り向いた。チビ太さんがお玉を振っていた。
 夕暮れ時で、おでん屋さんをちょうど開店させたらしい。

「おまえら、どうしたんだ。最近、顔を見せねえで、バーロー!」

 監禁されておりました。

「軽く食べてこっか」
 一松さんに言われ、屋台の席につく。
「お夕飯もあるので、あまりいただけませんが」
 けどチビ太さんは上機嫌で、
「おう心配すんな! おでんは低カロリーの健康食だ! たくさん食っても問題ねえ!」
 はたしてそうかな?


 そんな感じで、チビ太さんのおでんを細々食べた。
 一松さんはお夕飯前なのに、かるーくお酒。チビ太さんとの会話はない。
 といって気まずいワケではなく、古い友人同士の息苦しさのない沈黙だ。
 むしろ私の方が、チビ太さんと話をしていた。

「こんなろくでもねえ兄貴を持って大変だろうが、何かあったらおいらに言えよな!」
「お金を貸して保証人になって下さい」

「あんたはおいらにとっても、可愛い妹だからな!」
「聞いてないでしょ、チビ太お兄ちゃん」
 そうだ、チビ太さんにもお別れを言っておかないと、

「あのですね、チビ太さん。真面目なお話しがあります。実は私は――」
「いや、言わなくていい。おいらには全部分かってる」
「は?」
 何という唐突な察しの良さ。
 て、絶対分かってない。何かと勘違いしてる。

「いえチビ太さん。実は私はですね――」

「こいつの実の妹じゃないんだろぉ!?」

 ……今さら、それ?

 だがチビ太さんはグスッと目元をぬぐい、
「知らない場所から来て辛かったなあ! しかもこんな底辺野郎の女にされちまって!」

 あ、一松さんがバキッと割り箸を折った。

「転がり込んだ家がおいらの家だったら、おいらは喜んで面倒を見たのに!」
 あー、そうですね。もう少し健全な生活が送れたかも。

「何かあったら、おいらのアパートに来いよ。おいらも昔から一人だからな、妹一人くらい食わせてやる!」

「チビ太、おあいそ」
 一松さんが立ち上がる。
「何だ嫉妬かぁ? 余裕がねえぞ、ニートぉ!」
 チビ太さんが笑う。一松さんもそこまで怒ってはいないのか、ヒヒッと意地悪く笑い、勘定を支払った。

「じゃあな」
「ごちそうさまでしたー」
「また来いよ、バーロー!」

 あ。結局、お別れだと言えなかった。

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