第3章 三ヶ月目のさよなら
種類のとこには『原付』とだけ印字されていた。
顔写真は間違いなく私だ。
氏名欄の『松野松奈』という字面がこそばゆい。
「お金の残りを使ってイヤミに用意してもらった」
「ええ!? これ、偽造ですよね? 勝手に作ったら犯罪ですよね!?」
「もちろん偽造だし犯罪。でも身分証明証が一つあると大きいよ。
世の中、いちいち役所に問い合わせる店ばかりじゃないから」
「そりゃ大きいけど……でも本当に調べられたりしたら……」
「見せるだけで済むようなチェックの甘いものに使えばいいよ」
あと数日で帰るのに。お金を出してまで、こんなスレスレのものを作るとか。
「他にも色々作ってくよ。最終目標は戸籍入り。そうすれば公的なサービスも受けられる。この街でいつまでも生活していける」
戸籍って、まさか……。
「だから、あと数日で帰るんですって」
「俺は最後まであきらめない」
一松さんらしからぬ台詞。
「松奈がずっとここで生きていけるように、出来ることはする」
私の手をつかむ。
「もう閉じ込めたり、しないんですか?」
「閉じ込めるよ、ただしあんな小さな家じゃなく、この世界に。
それにはまず、松奈のここでの居場所を確実なものにしないと」
「…………」
一松さんは良くなったんだろうか、それとも悪化したんだろうか。
声は穏やかなのに、目の必死さは、あのときと変わりない。
心が痛い。何かが引きちぎれそう。
眠くなってきた。疲れたのかな。
一松さんが、私の手を取り、小さくささやいてくる。
「ね。ホテルに行く?」
私はコクンとうなずいた。
…………
…………
赤い空をカラスが鳴きながら巣穴に戻っていく。
『ご休憩』を終え、帰り道をぐったりして帰りながら、手をつなぐ一松さんに訴えた。
「……身体が、痛いっす」
背骨と腰がなあ。少しは寝たけど、やっぱり久しぶりだったからかなあ。
「ごめんね。たまってたから無理させちゃって」
ニヤニヤニヤニヤ。
殴ったろか。
でも一松さんの笑いは、どこか無理してるようにも見えた。
行為もかなりアレがアレで……コホン。
「一松さん、大好きです」
「分かってるよ」
触れあうだけのキスをし、よりそって手をつないだ。