第3章 三ヶ月目のさよなら
「でも俺に可愛いって言われて嬉しいでしょ?」
「やかましいです、ニートの分際で」
「おまえもニートだろ。顔を赤くしてるけど。今どんな気持ち? ねえどんな気持ち?」
「黙れ、犯罪者っ!!」
手を振り払おうとするけど、一松さんは離さず笑う。
……何かバカップルっぽい会話だなあ。
実際にはバカップルどころじゃない色々があったのに、流してしまっている。
痛い。
「どうしたの、松奈?」
「……いえ、別に。それよりどこに行くんですか?」
「ナイショ。もう少しだからね」
でもマジでひとけの無い場所でぶっ刺されたらどうしよう。
うーむ。涙を流して地面に倒れる可憐な美少女。一松さんは私の血で赤く光る刃を手に『これで俺たちは永遠に一緒だね』。そして私の目から光が消え――。
「ついた。ここ」
「――はっ!」
闇妄想にウットリしていたのが、一松さんに声をかけられ我に返る。
「ん? ここは?」
どこに連れて行かれるのかと思ったら、普通に繁華街だった。
一松さんはそこのビルの一角、地下に続く階段の前に立っていた。
地下アイドルのライブ会場、というわけではなさそうだ。
「どこに続いてるんですか? ま、まさか! 誰も来ない地下室で、私に鉄仮面をつけ、チェーンソーで脅そうとか!!」
「何の映画の話。もうついたからね」
「んん?」
『BAR 183』と書かれている。目の前にあるのは、バーの扉だった。
扉には『CLOSED』と札が下がっていたけど、一松さんは開けて入っていく。
「い、一松さん。閉まってるのに勝手に入ったらダメですよ!」
「大丈夫」
慌ててついていくと、中は出来たてのバーのようだった。
中はもちろん無人。いや、バーテンダーがグラスを拭いていた。
「なんザンスかチミたち、今は開店前ザンス。
あとそこの子、ガキの入店は禁止ザンスよ……ん?」
子供じゃないでーす。もう大人の女でーす……ん?
「イヤミ社長ー!!」
「ち、チミはー!!」
私の嬉しそうな声と、イヤミ社長の嫌そうな声が狭い店内にこだました。
ここに来た当初から、何かとお世話になっているイヤミ社長。
会うたびに仕事が変わる人だが、今回は何があったのか、それなりにツキが回ってきたらしく、店を構えて、まあまあ繁盛してるらしい。